キミの隣、ふわり

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   駅前からバスに乗り換え、あららぎ商店街に着いた時、時刻は21時を過ぎていた。  お祭りは終わってしまったらしく、公園の方から商店街に向かって、人々が歩いてくる。微かに漂う花火の残り香が、僕の心をぎゅっと痛くさせる。 「あれ?誰かと思ったら、司きゅんじゃん‼︎」  弾けるような声に振り返ると、楓さんが沢山の荷物を抱えて立っていた。 「……楓、さん」 「どしたんだよ、そんな顔して……。嫌なことがあったなら、龍さんに慰めてもらいな?まだ、公園で片付けしてるから。ほらほら、早くっ」  楓さんに背中を押されて、公園に向かって駆け出す。会いたい、会いたい……、1秒でも早く、龍さんに会いたい。  タイミング良く信号が青に変わり、公園の方からたくさんの人が渡ってくるけど、その中に龍さんの姿は見つけられなかった。まだ、公園にいるのかな……。  すっかり、人気(ひとけ)のなくなった公園に視線を這わせると、ブランコの近くに置かれたベンチに座って、ビールの缶を傾けている龍さんを見つけた。 「龍さんっ‼︎」  走りながら名前を呼ぶと、龍さんは驚いたように立ち上がり、牛みたいに突進した僕をしっかりと抱き止めてくれた。 「龍さん、会いたかったです」 「俺も会いたかったよ。今日は会えないんだと思ってたから、マジで嬉しい」  そう言って、ぎゅっと抱きしめられたら、涙が込み上げてきた。 「……っ、龍、さんっ」  泣きながら見上げると 「どした?」  と、涙を拭ってくれた。  もう、分からず屋のママなんて知らない。龍さんがいれば、それでいい。 「っ、僕のこと、さらって、下さい」  子どもみたいに泣きじゃくる僕を見つめ、龍さんは困ったように微笑むと、今までで一番強く僕を抱きしめ 「分かった」  と、言った。
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