キミの隣、ふわり

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「史乃さんっ。浴衣ありますか?」  ファッションとくらの入口を入ってすぐ、レジカウンターの中で雑誌を読んでいる史乃さんに声を掛ける。 「あら、司きゅん。あるよー、浴衣。おいで、おいで。祭りといえば浴衣だよねー」  ファッションとくらの品揃えの良さに感謝しながら、龍さんの腕を引いて、史乃さんが手招きしている場所まで歩く。 「これなんて、いいんじゃない?ほら、サイズ違いもあるし、お揃いできるじゃない」  僕の意図をきちんと理解してくれている史乃さんが、素敵な提案をしてくれる。さすが、史乃さん‼︎ 「俺、着ないから、司の分だけでいいよ」  興味なさそうに腕組みをしている龍さんに、史乃さんが眉を寄せる。 「はぁ?司きゅんが着るんだったら、龍も着なきゃダメだよ。ねぇ?司きゅん?」 「そうですよねっ。せっかくだから、着ましょう。お揃いしましょう‼︎」 「いや、無理。俺、似合わないから」 「大丈夫ですよ。似合います‼︎僕が保証します‼︎」 「だって♡さぁ、着替えようか」    悪い顔をして微笑んでいる史乃さんに、がっしりと腕を掴まれた龍さんが、諦めたように息を吐く。 「分かったよ、分かった。着るけど、笑うなよ、絶対」 「笑わないってば。そもそも、似合わないわけないんだから、笑う要素なんてないよ。さぁ、行こう、さぁ、行こう」  試着室では狭いからという理由で、僕たちは史乃さんのおうちで浴衣を着せてもらった。ちょうど、サイズ違いがあった草履も履いて、頭の先から、足の先まで、お揃いになった。嬉しいっ。 「司きゅんは文句なしで似合うけど、龍兄も似合うじゃん。背高いっていいよねー」  ピンク色の髪を頭の上でくるんと纏めて、お花の飾りをつけている文音さんは、水色の浴衣を着ている。帯の上でふわふわしているやつが、とっても可愛い。 「私の見立てに間違いはなかったわね」  と、言って満足気に頷いている史乃さんと、げんなりした顔をしている龍さんの温度差が面白い。 「ねぇ、司きゅん、そろそろ行こうよ。屋台はじまるよ」  時計を確認した文音さんが、我先にと玄関へ駆けて行く。 「はいっ。行きましょう‼︎楽しみだなぁ。浴衣着てお祭り行くの初めてです。ドキドキしますね」  そう言って見上げると、龍さんはやっと笑ってくれた。
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