キミの隣、ふわり

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   それからは、龍さんがおじさんの代わりに焼きそばを作っているところを眺めたり、楓さんのお店でお酒を渡すお手伝いをしたりして、お祭りを満喫した。  後は、龍さんと一緒に打ち上げ花火を見るだけ……、と言う時、恐れていた天敵が現れた。  白地にカラフルなお花が描かれた浴衣を着たアスナさんが、楓さんのお店にふらりとやって来た。お友達と一緒に行動していたから、今日は大丈夫だと思っていたのに、やっぱり一筋縄ではいかないらしい。 「龍先輩、みっけ♡」  アスナさんは、あからさまに酔った足取りで、龍さんに近づいていく。お店の奥で、パイプ椅子に座ってビールを飲んでいる龍さんは、フランクフルト屋のおじさんと話し込んでいて、気がついていない。これは、良くない。  僕が動く前に、楓さんがアスナさんの腕を掴んだ。 「すいませーん。スタッフオンリーなので、酔っ払いは入らないで下さーい」 「アスナだって、スタッフみたいなもんじゃない。てか、一番の部外者は司でしょ」  チラリと視線を向けられて、鼓動が跳ねた。痛いところを突かれた……。ここの商店街で育った人たちは、みんなが幼馴染だから、部外者は僕なんだ。 「司きゅんに酷いこと言うなよ」 「先に酷いこと言ったのは楓じゃない。もう、ほっといて。アスナは龍先輩と花火見るんだから」  アスナさんはふらふらの足取りで龍さんの前まで行くと、そのまま地べたに座って龍さんの脚に頭を乗せた。そして、腰に腕を回し、ぐいっと体を寄せた。あぁ、白い浴衣が汚れちゃう……、って、そうじゃない‼︎その体制、めちゃくちゃエッチじゃない?なんで、脚開いて座ってたのかな、龍さんっ。 「龍先輩。アスナ、酔っちゃった♡」  そう言いながら、龍さんの脚をするする触っているアスナさんって、めちゃくちゃ大胆‼︎フランクフルト屋のおじさんも驚いている。そりゃ、そうだ。 「酔ったなら帰ればー?」  龍さんは、相変わらずアスナさんを軽くあしらって、素知らぬ顔をして缶ビールを傾けている。 「もう歩けないから、龍先輩、抱っこして♡」 「アスナ重そうだからヤダ」 「重くないもんっ」 「そう?じゃあ、してあげるー」  龍さんはアスナさんの腕を掴んで立たせると、そのままお姫様抱っこをした。龍さんの首に腕を回したアスナさんは、勝ち誇った顔で僕を見ている。  なんで……。言葉を失っている僕と楓さんの横を通り過ぎ 「ちょっと行ってくるー」  と言って、龍さんは歩いて行った。  公園内では、もうすぐ花火の打ち上げ時間だと、アナウンスが流れている。アスナさんはめちゃくちゃヤる気満々だったし、龍さんは酔ってるし、絶対に、花火までに戻っては来ないよね……。
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