言えなかった

1/5
前へ
/11ページ
次へ

言えなかった

「落ちちゃった、指定校」  体育館の二階。バレーボールの授業中だった。一緒に後衛で並んでいた春奈(はるな)が私に言った。 「え?」 「りぃ! ボール!」 「え、あ!」  ばこん、と授業用のソフトボールが頭に当たった。 「いったあ……」 「大丈夫?」 「しっかりしろー」  女子だけしかいない体育の授業はゲーム進行も緩い。 「ごめんごめん」 「じゃあチェンジね」  チェンジと叫ぶ活発なクラスメイトに軽く謝る。コートを出た後、春奈と二人で壁際に座った。 「えっと、春奈、さっきのは……」 「言うタイミングミスった、すまん」 「いや、春奈が声かけなくても多分当たってたわ」  ボール、と言わなくても春奈は理解してくれる。 「わかる、莉緒(りお)そそっかしいよね」 「さすが」  へへっと歯を見せる春奈は明らかに辛そうな顔をしている。  推薦で受ければほとんど合格するという大学を受けたけど、春奈は落ちた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加