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「莉緒、これ」
第一志望の受験日前日、午後の自習が始まる前に春奈がこっそり渡してきたのは丁寧に折りたたまれたルーズリーフ。
「これって」
「お返し」
「ホワイトデーか」
箸が転がっても可笑しい年頃。中身のない会話が飛び交う日常で上手い切り返しはコミュ力の象徴だった。
家に帰って読んだ手紙には春奈からの感謝の言葉と受験への激励が綴られていた。スマホをとって、メッセージアプリの「パル」をタップする。
「お返し読んだで、チョコより甘かったわ」
「お」
「お守りにしてやんよ」
「おほ、パルちゃ照れちゃう」
「文頭がオな件について」
「わろた」
「りぃちゃそ頑張ってくるお」
「り」
「りw」
短い言葉で繰り返されたメッセージに、親しみはあれど私から春奈への感謝の言葉はひとつもない。ありがとうにありがとうで返すことが気恥ずかしい。翌日の受験には春奈からの手紙もファイルに入れて持っていった。
二週間後、結果は不合格だった。別に受けるのは一校だけではない。春奈にはあっさり「いっこ落ちた」とメッセージアプリで伝えた。返ってきたのが長文の労いでも慰めでもなく「お疲れ」の三文字だったことが私にとっては救いだった。
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