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俺が働いているコンビニは、全国規模の大手チェーン店ではなく、ローカル展開の店だ。それゆえにか、品揃えもだいぶ変わっている。
ノルマのようなものはないから楽だけど、テレビで特集される「コンビニベストスイーツ」的なものにも縁がないので、そこは弱みだろう。大手の看板は強い。
だが、ローカルにはローカルの強みもあるはずだ。
うちのコンビニにある風変りなものの筆頭が、入口にいちばん近いところに陳列されている、とあるものだと思う。
安全靴、脚絆、革手袋、ゴム手袋など。
俗にいうところの「保護具」がドーンとラインナップされているのである。
初めに見たときは驚いたものだが、勤務していくうちにわかってきた。
売れるのだ、これが。
この辺りは工業区画で、大企業の下請け工場や、町工場などがそこかしこにある。コンビニのオーナーが、そういった会社のひとつであるため、自社の社員に対して「あそこで買え」と推奨しているらしい。
まあ、言ってみれば御用達。
靴に関してはサイズのこともあるので、大口の場合は事前に注文もくる。
いったいここは何屋なんだと思わなくもないが、そもそもコンビニエンスとは、便利の意だ。大半の客にとって「便利」なものが置いてあるのだから、正しくコンビニなのである。
もうひとつ、ここが特殊なコンビニといえる理由は、客層だ。
決まった時間帯にのみ、変わった客が訪れる。
異世界の客人だ。
深夜帯、いちおう防犯の意味をこめて二人体制での勤務が義務づけられているのだが、相方がゴミの片づけなどで店外、ないしは奥に引っ込んだとき。店内に俺だけがいるワンオペ状態になったときにのみ、このコンビニはどこかの世界のダンジョンに出張するのである。
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