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「席替え終わったかー?じゃあ、転入生を紹介するぞー」
席替えを委員長に任せていなくなった先生が教室に戻ってきて、唐突な発言をしたので、一瞬、先生の言葉が理解できなかった。転入生?
一気に教室内のボルテージが上がり、先生に呼ばれて教室に入ってきたのは、都会っぽい雰囲気の爽やかな男子だった。
「初めまして。東京から引っ越してきた桜井優です!初めての転校で緊張してますが、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて恥ずかしそうにする表情と、はにかんだ笑顔は人懐っこい印象を与えた。彼が挨拶すると、クラスメイトの女子はうっとりと黄色い声を、男子一同は不満混じりのため息が教室に響いた。
他の人たちの反応とは裏腹に、私の気持ちは冷めていく一方だった。転入生であれ、積極的に関わろうとも思わない。彼も、もし私と関わったとしても、ろくな事にならないだろうし。お互いのためを思えば、このまま知らない過ごせば平和な世界が保たれると、自分の解を導き出した。
しかし、不覚にも私は、彼をついマジマジと見続けてしまった。なぜなら、彼の顔に見覚えがあるような気がして、ずっと頭の中の記憶を探っていたのだった。すると、いつの間にか彼と目が合ってしまい、私に向かってヒラヒラと手を振った。
「この前はありがとうねー!」
その言葉で、もやもやと霧がかかっていたような記憶が徐々に鮮明に呼び起こされる。そういえば、前に職員室を教えて欲しいと聞いてきた男の子だった。
彼の屈託のない笑顔を直視できず、私はもう一度、教室の窓に広がる青空を見上げた。
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