第八章 僕が傍にいるから

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 彩人のベッドに移動して眠りに就いた心路を、研悟は優しいまなざしで見ていた。 「僕は本当に、本気でこの人を好きになっちゃったんだなぁ」  恋なんて、自分の人生に無縁だと思っていたのに。  だのに、子連れのΩ男性と恋に落ちるなんて。 「決戦は金曜日、だな」  心路のパートナー・凌也。  まずは奴を、心路から引きはがす。  もう二度と手が出せないように、完膚なきまで叩きのめす。 「同じα同士だ。手加減なしで行かせてもらうぞ」  心路の気持ちが時折ゆれることは、承知している研悟だった。  仕方ない。  一時は、子どもを成すまで愛し合った仲なのだ。  綺麗さっぱり忘れるなんて、無理な話だ。  それを知りながらも、丸ごと心路を愛していた。  過去の男の影に怯えながらも、どこかで幸せの可能性を捨てられない弱さ。 「それも含めて、心路なんだから」  だからこそ、僕はこの人を愛したんだ。  恋はバラ色だけじゃない。  僕は、そこまで無邪気じゃない。 「大人の恋の戦いを、しようじゃないか」  独り言ちて、研悟は眠れぬ夜を過ごした。
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