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「そこのお兄さん、休んでいきませんか?」
終電に間に合わず、家に向かって国道沿いを歩いていると、女性に声をかけられた。
ああ、変なのに捕まってしまった。
そう思いながら声のした方を見ると、コインパーキングに停めたキャンピングカーの隣に、ホテルの制服のようなものを着た女性が立っていた。
「よければ、ご自宅まで乗っていきませんか?ゆっくり、おやすみになりながら」
家まで乗っていく?
タクシー...なのか?このキャンピングカーが?
「今なら初回ということでお代は頂きません いかがですか?」
タクシーが無料?そんなおいしい話があっていいのか?
「申し遅れました 私こういうものです」
そう言うとその女性は慣れた手つきで名刺を差し出した。
そこには有名なタクシー会社の名前が書かれていた。
モビリティリラクゼーション課。
「じゃあ...家まで、お願いします」
名刺一枚で信用しきったわけではなかったが、無料でタクシーに乗れるとなればありがたいし、何より早く横になりたかった。
「ありがとうございます!どうぞこちらへ」
キャンピングカーの中に案内された。テレビで見たことがあるものよりもずっと高級感があり、布団もふかふかで、まさにホテルのようだ。
「安眠効果のあるアロマも炊かせていただきます それでは、お疲れ様でした」
自宅の住所を伝えると、その女性は運転席に戻り、わずかにエンジンの振動が伝わってきた。
掛け布団を掛けると、すぐに眠気がやってきた。
──おやすみなさい。
…永遠に。
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