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これはもういらないや、と日記帳をゴミ箱に投げ入れた。そのときだった。
投げ入れたはずの日記帳がゴミ箱からバサバサとまるで鳥のようにページを広げて飛び出した。そしてそのまま僕の頭上でページを開くと、凄まじい吸引力で僕を丸ごと呑み込もうとする。
髪の毛が逆立ち、立っているのもやっとで息さえできない。ついに僕は力尽きると、頭から吸いこまれた。
ぐるぐる渦を巻きながら深い底へと落ちていく。
バシャ。
どこかで水の跳ねる音がする。
バシャ、バシャ。
ハッとして体を起こすと、辺りは白く霞んでいる。
立ちあがって手を伸ばしてみるが周りには何もない。
これは夢だろうか。いや違う。僕は日記帳に吸いこまれたんだ。
声が聞こえる。
ハハハ。すごい雨だ。
子どものはしゃぐ声だ。
風が起こり、目の前に、僕のよく知る小学校の通学路が現われた。
目を凝らすと、幼い日の僕がいる。そしてあいつも。
楽しいな。バシャバシャ。
長靴を履いたあいつが水溜まりで跳ねている。
……。
その横で僕の靴は泥水を浴び、濡れている。
どうしてなにも言わない。僕は幼い自分を見つめることしかできないでいた。
ふたたび辺りは白く霞んでいった。
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