ここに墓標を立てよ

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「……これが彼のやり方なんです。彼はだと断定されるや否や『揃いも揃って馬鹿な奴らだ』と笑いました。……わたしたちはそれを知りながら何1つ残された家族に話すことが出来ませんでした。……わたしたちは黙することで嘘つきに成り果てました。わたしは、その子も後を継ぐ筈だった領地管理人の地位を捨て修道院に入り、懺悔と告解の日々を送りながらレオンハルトに神の審判が下される日を待っていました」  ヘルツはもうゲオルグの話を聞いていなかった。死んだ下級生の名前と家族の所在を聞くと直ぐ様修道院を飛び出した。  ザルツブルクに着いたのは日没直前だった。駅でアンシュッツと馬車が待っていてヘルツが乗るや否や発車した。 「エドゥアルド・オーバーシュトルツは代々ザルツカマーグートで領地管理人を勤める名家の遠縁です。病弱でしたが本家は男子の後継が無く、ギムナジウム卒業後、後を継ぐことが決まっていたそうです。ザルツカマーグートの領地管理人となれば皇帝一家とも深い関わりを持ちます。それがレオンハルトの気に食わなかったのかも知れません」 「エドゥアルドの死後、父親のクラウスは?」  アンシュッツは首を振った。「屋敷や財産の一切を本家に譲渡した後、行方が知れないと思っていましたが、まさか山小屋の管理人がクラウスだった……? 2つの事故死が殺人だったなんて。とんだ大失態だ」 「大丈夫。今からでも挽回は出来ます。……急いでくれ。復讐を果たした今、彼の行動は1つだけだ」  グロースグロックナー山に着くとヘルツは松明だけ持つと一目散に駆け出した。夏の山道は渇いていたが、少しでも脇に逸れると道が崩れ、足元がかなり不安定になる。後ろからアンシュッツが声をかけてくれなかったら迷子になっていたかレオンハルトやエドゥアルドの二の舞になっていただろう。 「もうすぐ現場です!」アンシュッツが叫んだ。その途端、松明の明かりの先に人間が見えた。ヘルツは息を呑んで立ち止まった。道案内の看板の前に男が1人立っている。粗野で汚れた格好をしているが昔、かなりの教養を受けた人間だと感じ、ヘルツは彼がエドゥアルドの父親だと分かった。 「これはこれは警察の皆さん。お待ちしていました」とクラウスは平静に言い、後ろの木の看板を撫でた。「この看板は左が危険道、右が山小屋に続くことを示している。……だがレオンハルトが死んだ時、これは逆になっていた。エドゥアルドの時と同じように逆にしただけであいつは死んだ……これは奴の墓標ですよ。嘘を付いて人を殺し、同じ嘘で殺された奴には相応しいでしょう?」  言葉が終わらないうちにヘルツは駆け出した。アンシュッツも後に続いた。しかし2人よりもクラウスの姿が闇夜に落ちる方が遥かに早かった。崖下を覗きながら伯爵になんと報告したら良いのか、下手したら自分も嘘つきに成り果てるのでは無いのかと考えてしまった。
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