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ヘルツは妻を見つめた。レオノーラは頭が良く、聡い。全ての事件でではないが行き詰まったヘルツに光明を当てたことも有る。
「そのメイドたちに会わないといけないな」
そのメイド、アントニアとグレーテは階下の使用人室に居た。一族の者たちは葬式が終わるとすぐに帰ったようでヘルツが所在を尋ねた時は掃除で忙しく引き返し、2度目の訪問で捕まえた。
最初彼女たちは硬く口を閉ざしていた。その様子からしてレオノーラの予想は的外れでは無かった。
「わたしは警察官だ。個人的理由で人が殺されたとなれば殺人犯を捕まえることが、唯一の弔いになると信じている。だからといって君たちに不利になるような事態に追い込んだりもしない。約束する」そう話してやっと2人はぽつりぽつり、と少しずつ話し始めた。
「……奥様の仰る通りです。レオンハルト様は爵位が有るということは、人が従うのが自明の理で有ると考える方でした」
「レオンハルト様は自分が必ず優位に立っていることを思い知らせる為に腕力で人を従わせることを肯定していて、一族の子どもたちに怪我を負わせたことが何度か有りました。その度に『勝手に転んだ』だの『ちょっと押しただけだ』と仰っていましたが、それが嘘で有ることは皆、知っています。旦那様と奥様はわんぱくが過ぎるだけだと思っていました……あれの何処が良い子なのか私には分からないわ。山登りを始めたのも自分の指示無しでは下山出来ないと思い知らせる為だともっぱらの噂です」
「ふむ……」アントニアとグレーテの話は想像以上の収穫だった。親は子の可愛い一面しか見えていないとは時々聞くがこれは酷い。腕白どころか残酷かつ狡猾だ。同時に葬式が終わってすぐに一族の人間が帰路に着いたことも納得がいった。
「レオンハルト様はギムナジウムの出身だが、その場所を知っていたら教えて欲しい」
「ウィーンの森のすぐ近くに有る……」
ギムナジウムの名前をメモするとヘルツはレオノーラは目配せすると暇乞いを願った。アントニアとグレーテはまだ不安な顔をしていたが、何かあればウィーンのヘルツのところに来て良いと伝えた。
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