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タック、タック、タック・・・
タック、タック、タック・・・
ノックの音が響いていた。入り口から部屋の奥に血痕が点々と続き、男がうずくまっていた。右腕にはいく筋もの血が流れ、左手にはベレッタM950が握られていた。
男は麻薬組織で会計を任されていた。上がりの金は、ダウンタウンのクレジットユニオンに預けられた。ボストンバッグに詰められた現金は、カウントされたあともしばらく受付のデスクの足元に置かれ、業務終了時に金庫に収められた。いつしか、男は窓口のリリーと親しくなっていた。女は、『汚い金』なら盗んでも罪ではないし、ユニオンが一度受け取った金だから組織の金を盗むのではない、と男の耳に囁いた。
その日の終業間近に、男は現金ではちきれそうなボストンバッグを預けた。しばらくして、リリーは何食わぬ顔でボストンバッグを手に取り、裏口から駐車場に出た。だが警備員に呼び止められ、リリーは隠し持っていたベレッタで躊躇なく警備員を撃ち、男の待つトヨタへ走った。銃声を聞いた別の警備員が「フリーズ!」と叫び、リリーは振り向きざまに数発撃った。警備員も発砲し、リリーは倒れた。男はコルトを抜くと、警備員と撃ち合いになった。男が弾を撃ち尽くした時、警備員は崩れるように倒れた。
リリーは白いブラウスを真っ赤に染め、こと切れていた。男はコルトを投げ捨て、リリーの手から、まだ熱いベレッタをもぎ取りベルトに挟むと、ボストンバッグを持ってトヨタに向かって走った。キーのボタンでロックを解除し、イグニションをスタートさせた。ドアを開けボストンバッグを助手席に投げ込んだ時、銃声が響き右腕に激痛が走った。男は運転席に滑り込むと、左手でオートマチックをドライブに叩き込み、車を走らせた。
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