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 足元を照らす月明かりと、木々や虫のざわめきに導かれるようにルーナは舗装されていないボコボコの道を歩いた。ポケットにはパンとマーガリン。それらは歩いているうちに足の体温で温まり、ほんの少しだけ美味しくなることに彼女は先日気が付いた。  スモークタウンの情報の少なさと、これから食べるパン、そしてなにより恋人のことを考えると、ルーナは一日の疲れが全て吹き飛んでしまうような気がした。煙草の煙が月を覆うのを見て、彼女はシオンの言っていたことを思い出した。 「スモークタウンっていう名前は、技術の発展の時にたくさん出た有害な煙からきてるみたいだね。それと労働者の吸うその煙草の煙のことも表すみたい」  呆れるような彼の苦笑いを思い出す時、ルーナは何とも言えない気持ちになった。彼がそういった笑い方をするのは大抵、何か言いたいことを我慢している時だった。ルーナはその煮え切らない態度が嫌いで、しかし彼のその優しさを愛していた。そんなシオンと過ごすこれからの時間は、彼女にとって何ものにも変え難い宝物だった。  ルーナが煙草を一本吸い終わった時、ちょうどシオンとの待ち合わせ場所である丘の上に辿り着くところだった。彼のお気に入りの音楽が、自然の音に混じりながら聞こえてくる。月に照らされた小さな彼の後ろ姿が見え、ルーナは駆け足になった。
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