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 突然隣で 「シュコッ」  と、固体が圧で押し出される人工的な音がした。ルーナは少し驚き呼吸が止まったが、すぐに思い出しため息を吐いた。  この街の住人は、煙草を吸わない。代わりにカプセルの入った小さな酸素マスクのようなものを持ち歩く。それを口に当てがうと先程のような音と共にニコチンを摂取する。そしてマスクを仕舞う。これで終了。  そこそこの期間この街を歩いているルーナだったが、未だにその独特な音には慣れそうもない。その音を聞き驚く度にルーナは恥ずかしくなり、視線を落として早足になった。 「煙草が美味しいのは、時間をかけて吸うからなのに......」  ぶつぶつと呪詛のような独り言を垂れ流しながらルーナはスモークタウン行きのボロボロのバスに乗車した。整理券の機械はすっかり壊れ、仕事を放棄していた。席に座ると、ルーナは一冊の小汚い本を鞄から取り出し、表紙を眺めた。  
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