2

2/2
前へ
/22ページ
次へ
 口笛を鳴らしながら彼女がたどり着いた場所は焼却炉であった。前時代的なガラクタ達が所狭しと鉄の箱に詰め込まれている。急速に発展したこの街の抜け殻。この学校も例に漏れずその廃棄処理は間に合っていないようだった。捨てられた衝撃に耐えられず酷く変形してしまったラジオ、空気が抜かれぐったりとしたサッカーボール、臓器が剥き出しになった何やらよくわからない機械......。  炭と埃に覆われ、退廃的な趣を感じさせるその一帯は、ルーナの興味を強く惹きつけた。その中に、ワインレッドの硬い表紙をした本が鎮座していた。そのボロボロの本は、ルーナの目にはとても誇り高く、気品のある貴族のように荘厳な出立ちに映った。 「何かしら、この本」  ルーナは手に取ると、灰を手と息で払い金色の文字で書かれたそのタイトルを目を細めて凝視した。 『ありがとう』  そう書かれていた。  ありがとう......? ルーナは聞き覚えのあるその言葉を頭で繰り返す。確か、バーンシティの接客用のロボットが繰り返し発していた言葉だ。意味についてはよく知らない。彼女はその言葉を人間の口から聞いたことはなかった。しばらく考えたが何も分からず、文明の発達に伴い消えていった言葉のひとつなのだとそう結論付けた。 「どれどれ......」  日焼けし、今にも破れそうなページをパラパラとめくると白紙がそのほとんどを占めていた。かろうじて最初の数ページには手書きと思われる文字が並べられていた。何となく今この場で全てを見るのは勿体なく思われ、周りを確認した後ルーナはそれを鞄へと仕舞い込んだ。  面白そうなものを拾い満足した彼女は、口笛の続きを気持ち良く吹きながら教室へと戻っていった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加