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 試合の方はというと…まだ小学校低学年のプレイらしく、ボールが蹴り出されるたびに周りの全員が突進するので、そのたびに人だかりが移動するという調子で、じれったい展開だ。大勢の子どもたちの足に隠れてボールの行方がなかなか見えない。ノアが苦笑しながら見ていると、たくさんの足と砂煙の中からいきなりボールがポン、と飛び出した。たまたまその先にいたトムが足許に転がってきたボールを呆けたように見下ろす。ノアは声を限りに叫んだ。 「今だ!トム!いけーーーっ!!!」  トムはハッと我に返り、つたない足どりでゴールに向かってドリブルをする。また子どもたちがボールに向かって突撃していく。頑張れトム、誰にも渡しちゃだめだ。ノアは興奮極まり両手を握り締める。  どうにかゴールに近づくと、敵チームの子どもたちもまた彼を阻止すべく向かってくる。ノアの目から見るとその光景はまるで、たった一匹の獲物を求めて突進する狼の群れのようだった。かわいらしい狼ではあったが。  トムは群れが近づく前に、ボールを蹴る。その瞬間、すべての動きがスローモーションになった。まるで映画のように。ボールはゴールに向かって真っすぐ突き進んでいく。…と思ったが、全く違う方向に飛んでいく。オーノー。ノアは両手で頭を押さえる。だがそのボールは、ちょうどトムの逆サイドに控えていたチームメイトの目の前に落ちた。狼の群れがすっかりトムに気を取られていたために、彼はまったくのフリーだ。満を持して、シュートを蹴りこむ。   ボールはコロコロと転がり、見事キーパーとは逆方向に決まった。
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