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三人が駐車場に向かっていると、声をかけられた。
「トムのご両親ですよね?ウィリアムの父親の、マイケルです」
ウィリアムは、今日ノアが「結果的に」アシストになったパスをして、ゴールを決めたチームメイトだった。その父親が、爽やかな笑顔で手を差し出している。長身でハンサムな男性だった。
「トムの父親の、ノアです」
握手を返す。マイケルは、チノパンに白いポロシャツをインして、茶色のローファーを素足に履いている。頭のてっぺんから足のつま先までザ・清潔という感じのパパだ。彼も息子のウィリアムも、サラサラの金髪を風になびかせている。
Tシャツにチェックのシャツ、デニムにスニーカーというカジュアルな出で立ちだったノアは、ちょっと劣等感を覚える。栗色の髪が今肩につきそうな長さなので、後ろで結ってキャップをかぶってきてよかった、と密かに思った。でなきゃ、今頃今日の大興奮のせいでボサボサの髪を晒すことになってただろうから。
「トム、ありがとう。きみのおかげで見事なゴールが決まったよ」マイケルがトムの頭をなでる。
「ナイスシュートだったね。ウィリアム」ノアが腰をかがめ、目線を合わせて祝福する。
ウィリアムははにかむような笑顔でトムと握手した。
「あなたの応援も、素敵でしたよ」
愉快そうに言うマイケルに、ノアは少し恥ずかしくなる。
「すっかり興奮しちゃって。トムのことだといつもこうなんです。こちらは、もう一人の父親、僕の夫のジェイです」
ノアははにかみながら、パートナーを紹介した。
マイケルが同様にジェイに手を差し出したが、彼は何も言わず、マイケルの目を見ながら、握手だけを返した。力強く。
「それじゃ」
マイケルはノアににっこりと微笑みかけ、トムを連れて去っていった。
ジェイはマイケルの後ろ姿から視線を外さず、トムに聞こえないようにつぶやいた。
「彼には気をつけろ」
「へ?」
「何だか気に食わない」
「なんで?すごく感じのいい人じゃない」
「それはお前に、だ。あいつは怪しいぞ」
「まさか!」
ジェイがノアを睨むように見る。
「もう。ジェイ。それってもしかして…焼きもち?」
ニヤニヤしながら、最愛の夫の腕に自分の腕を絡ませる。
ジェイは無表情のままだ。
「とにかく、気をつけろ」
「はいはい、コーチ」
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