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君と、ずっと一緒に。
「ん…?」
ここは、どこだろうか。
見慣れない、薄暗くて静かな部屋。部屋というよりも、工場の方が近いかもしれない。とにかく広いことは、起き上がらずともわかった。
とりあえず、起き上がってみよう。状況を把握するのは大事なことだ。
僕は、体を起こした。そして、自分の正面に広がる景色に絶句した。
「ルイ…?」
そこには、僕の初恋の相手でもあり今も片想いをしている、ルイがいた。さらに、お互いの手元にはピストル。
ここは、どこなんだ…これから、何をされるんだ…
とその時、どこからか声が聞こえた。スピーカーを通しているようだ。
やあみんな!このゲームに参加してくれてありがとう!このゲームのルールは、至って簡単!正面にいる相手を、手元の拳銃で撃ち殺すだけ!自分が生き残りたけりゃ相手を撃つ。それだけの単純明快なルールさ!
ちなみに、「どちらかを殺すなんて無理だよぉっ!」って場合は、ゲームマスターの僕に言ってね。その場合、二人仲良くあの世行き。二人一緒なら寂しくないでしょ?まあそんなわけで、僕は管理室からずっと君たちの様子を監視してるから。長引きそうだったら、こっちの裁量で適当に毒ガス放つから、そこんとこよろしく!まあ僕も心理学的研究のためだから、結構待つよ。心配はご無用!質問があったら、いつでもゲーマスを呼んでね。それじゃ、ゲームすたーと!
そこで声は途切れた。
「っは…?」
意味がわからなかった。どちらかを殺せ、だって?しかも…しかも、自分の手で?
たしかに自分が好んで殺されたいわけじゃないけど、それで愛しのひとを殺せるかと言ったら違う。
僕が葛藤でうずうずしている一方で、ルイの方は落ち着いていた。「どんな決断も、受け入れる」というような顔で。
仕方ないのかもしれない。
僕は、相手に、銃を向けた。
それでもルイは、平然としていた。
これは、自分が生き残るため…ゲーマスが言っていたように、自分が生き残るためには殺すしかないんだ…
そう自分に言い聞かせ、手に力を入れようとするが、無理だった。さらに言えば、力がどんどん抜けているようにも感じられた。
どうして…これは、やらなければいけないことなのに…
「どうしたの、」
不意に、ルイの声が聞こえた。
「決めたんでしょ、撃つって。早く撃ちなよ。僕は、僕は受け入れる。どんな決断でも、君がそれで良いなら、僕だって構わない。」
「ルイ…」
「だって、僕は君が好きだから。」
「…⁉︎」
「今まで、君と出会ってからの数年間、その充実した生活の中で君からもらった愛は、どんなに両手を大きく広げたって溢れてしまう。その大きな愛を、こぼれないうちに、その弾に込めて送って。」
「っ…」
「僕は、受け入れるから。」
撃てない。
どんなに君に言われても、
言われれば言われただけ、
撃てなくなる。
もう、手が震えて、銃を持ってるので精一杯。
僕は、君に撃って欲しい。
僕を、意気地のない僕を、
その「正しさ」で撃って欲しい。
ほら、
世界は輝いて。
ほら、
君を照らしてる。
君に影はなくていい。
それだけ輝いていて欲しい。
ほら、
君のブローチも。
ほら、
君を照らしてる。
溶け込めなかった僕に、
輝く明日をくれた。
ありがとう。
君からの愛を、
『アリガトウ』
乾いた空に響く音は、夢の彼方に溶けていった。
少女の夢。それは、
「君とずっと一緒にいられますように」
最期に響いた銃声が、少女の夢を叶えた。
ありがとう。
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