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その2
「…なら、答えね。私、自分で言うのも何だけど、かなりイカレてるのよね。ああ、ツグミから聞いてるか、はは…。私、裁判なんて別にどうでもいいの。裁判相手の兄弟と食事して、できれば親しくなって…。そんな刺激的な気分で裁判を迎えるのも粋じゃない。単純なことよ…」
さすがにケンは唖然となった。
おそらくその胸中では、”やっぱり相当イカレてる…”と呟いていたであろう。
「じゃあ、ケータイ番号は教えてもらえる?」
「いえ、それもすいませんが…」
「そう…。それなら、”また”ね」
氷子はタバコを放り、足で押し消したあと、エンジンをかけっぱなしだった車に戻った。
”ブウォーン、ブブブ、ブウォーン…”
エンジン音を全開にし、氷子の運転する赤い車はコンビニの駐車場からかっ飛んで行った。
***
車中、郡氷子はすでに顔が紅潮していた。
「あの中坊、この私に火を点けやがった‼…方針転換だわ!」
この女がこういった攻撃的な興奮モードに入ると、もはや猟奇の霊がとり憑いたとイコールであった。
そしてその高揚感は、脳内分泌物の過剰な相互作用を起こし、異常行動への衝動が制御を失っするのだった。
それは極めて端的な”攻撃欲”であった…。
言うまでもなくその究極の到達点は殺人である。
そのため郡氷子は、本能レベルで性的欲情にメンタルシフトする、特有のセルフマインドにおける条件反射を無意識に取りこんでいたようだ。
***
「…あのクソ犬、テメーの体からぶん出した血で真っ赤になって、痙攣したまま死んじまいやがった。でも美しかったわよ。思い出すとときめいちゃうわ~~」
すでに目をドロンとさせた彼女の握るハンドルからは、いつの間にか片方の手がスカートを撒くっていた。
「ハア、ハア、ハア…」
彼女は恍惚の表情で喘ぎながら、時速60キロを踏んで、愛車のなかで今日もハーフハンドルタイムの快感を貪るのだった。
「あのガキ、小柄だけど、私好みのカラダだわ。フン、なら喰らってやる‼」
もはや彼女の腰から下は、イカレた主の意に沿って狂い咲きするほかなかった…。
”ぶっ殺すのは兄の方と決めていたけど…。あの弟の出方次第じゃ、展開はどうにでも変わるわね。うふふ‥、ツグミ、あんたもその輪に交わってお姉ちゃんと正体を見せうのよ。イカレたクライマックスのステージでね…(薄笑)”
郡氷子、29歳…。
貸金業法におけるグレーゾーン撤廃以前に違法な闇金業で莫大な利ザヤを得、稀代のイカレロードを爆走、積年鬱屈させてきた凶暴マックスのサガは今、制御不能のラストシーズンを迎えようとしていた…。
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