化かし合い

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「最近お義兄さん、おかしくない?」  和香子が水を向けた時、美香子の表情は明らかに強張ったという。 「なんかよそよそしいっていうか、冷たいっていうか……正直結構前から感じてたけど、お姉ちゃん、お義兄さんとなんかあった?」  暗い表情で俯いた美香子は、相手がまさに自分の夫の浮気相手だとは思いもしないまま、胸に秘めていた重い悩みを吐露した。  多分、浮気をしている。  美香子の口からは、僕達の予想通りの言葉が飛び出した。  度々仕事で遅くなる事が増えるとともに、食事も外で済ませて来るようになった。家に帰って来ても一言も喋らない。もうずっと、会話らしい会話もないのだ、と。 「それさぁ、探偵事務所にでも調べて貰った方が良くない?」 「探偵? ドラマに出て来るような?」 「そう。うちの会社にもいるんだよね。知り合いの旦那が浮気してるかもって探偵頼んで、実際に証拠まで掴んで貰ったんだって。呆気なく離婚成立して、慰謝料もたっぷりふんだくったって笑ってたよ。今度紹介してもらおうか?」  和香子の提案に、美香子は驚くほどあっさり乗っかった。  和香子が紹介したのは『樫村探偵事務所』と言って、浮気関連の調査においては名うての個人事務所だ。美香子はすぐに連絡を入れ、僕に対する浮気調査を依頼した。  それらが全て、僕達の手のひらの上で踊らされているだけとも知らずに……。
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