化かし合い

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 僕と和香子が結ばれたのが必然なら、美香子との関係が次第に冷え込んでいくのも必然だった。  早い段階で僕達がベッドを共にする事はなくなり、会話も減った。和香子が来た時には花が咲いたように三人で盛り上がるものの、夫婦二人きりになると途端に冷めた空気が部屋中に充満する。いつしか僕は美香子に対して、見知らぬ同居人のように接する事しかできなくなっていた。 「ねえ、そろそろ別れたら?」  ただれた関係が三年に及んだ頃、唐突に和香子が口にした。 「別れるって言ってもな……」  僕の頭にあるのは慰謝料の事だ。子どもがいなかったのが幸いとはいえ、僕から離婚を切り出せばそれなりの慰謝料を請求されるのは目に見えていた。結婚してすぐに、勢いで買ってしまったマンションのローンもある。今の生活だって美香子と二人分の収入があるからなんとかぎりぎりのところでやっていけているというのに、借金を抱えて再スタートとなればかなり苦しい生活を強いられるだろう。 「払わなければいいのよ」  白い蛇のように瑞々しい肢体を僕の身体に絡めながら、和香子は耳元で囁いた。 「お姉ちゃんにだって責任はあるんだから。あなたをこんなに長く縛り付けていた責任を、お姉ちゃんにも取って貰いましょう」  にやりと浮かんだ妖艶な笑みは、普段三人でいる時の明るく快活な彼女からは想像もできないもので、そのギャップに僕の心は何度でも打ち震えるのだった。
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