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化かし合い
美香子と結婚したのは五年前、お互い二十四歳の時だ。
昨今の世の中で見ればかなり早い決断に、職場の先輩や友人は本当にいいのか、じっくり考えた方が良いと繰り返したものの、学生の頃からの付き合いである僕達の「卒業したら結婚しよう」という約束は固く、むしろ二年間も先延ばししてしまったのが悔やまれた。
結婚した当初は仲睦まじく、理想の新婚生活を楽しんだものの、結果的に見れば周囲の言う通りだった。
若気の至りという言葉の重みを痛感したのは、結婚してからわずか二年後の事だ。
美香子の妹、和香子が地元の短大を卒業し、就職のためにと都内に引っ越してきたのだ。
美香子の実家にお邪魔した際や、結婚式の時等、それまでにも度々顔を合わせる機会はあったものの、僕の記憶にあるのは化粧っ気もなく、小麦色に焼けた健康的な肌をセーラー服に包んだ、垢ぬけない女子高生姿だった。
成人を迎え、いち社会人となった和香子は、驚く程の変貌を遂げていた。
化粧を覚え、髪型を変えただけで、こんなにも女は変わるものなのかと痛烈に思い知らされた。
和香子は会社の独身寮が窮屈だと、度々我が家に遊びにくるようになった。妻の美香子もいつでも来ていいよと、合鍵を預ける程気を許していた。
美香子が会社の忘年会で帰りが遅くなると言った日――最初の過ちをおかした。僕しかいない部屋に、何食わぬ顔で和香子が現れ、二人で酒を飲むうちに……僕達は関係を結んでしまった。
その前から兆候のようなものはあったし、和香子もまた、美香子が留守だと知っていてやってきたのだ。後から思い起こしてみれば、なるべくしてそうなった、予定調和みたいなものだったのだと思う。
一度足を踏み外した先は底なし沼みたいなもので、僕達は一気に愛欲の泥の中に沈んでいった。その間にも、和香子は何食わぬ顔で我が家に現れた。夫と妻、妻の妹という傍目には非常に仲の良い関係を保つ裏側で、僕と和香子はこっそりと逢瀬を繰り返した。
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