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その日。私は生まれてはじめて、この塾に来て楽しいと思ったのだった。
「こ、これは、なに……」
教室に入ってきた先生が、完全に腰を抜かしている。私は一人で椅子に座って、けらけらと笑いながら目の前の机を蹴り飛ばしたのだった。
がつん、と音がして机がひっくり返る。べしゃり、と音がして何かが潰れた。ピンクのうねうねてらてらした細長い物体。教科書で見た通りなら、あれが人のはらわたというものなのだろう。
教室は右も左も前も後ろも天井も床も、何もかも 真っ赤に染まっている。飛び散っているのは、全て人間だったもの。生徒だったもの。
私がこの地獄から“解放してあげた”塾のクラスメート達の成れの果てだ。
「こんな塾があるからいけないんです。生徒がいなくなったら、もう塾じゃなくなりますもんね。みんなも可哀想な子達ばっかりだったから、一瞬で苦しまずに楽にしてあげました!」
「ど、どうや、って」
「どうやって?よくぞ聞いてくれました先生!褒めてください、私、才能を開花させたんです、先生達が望んだ通りに!」
多分今の私は。今まで誰も見たことがないくらい、キラキラと輝いた顔で笑っていることだろう。
「私、人を呪い殺す才能があったみたいで!先生のお陰です、ありがとうございます!明日は、先生で試してあげますね。みんなと違って、ちゃんと苦しませてあげるんで、楽しみに待っていて下さい!」
地獄に堕ちるのは、一体誰か。
少なくとも今この瞬間の私の心は、天国のように晴れやかなものであった。
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