怠惰のジャスティン

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怠惰のジャスティン

 とある世界の国王、ジャスティンは困り果てていた。 「……必要な資材がいつまでも届かない、と。それは困ったな、劇場の開場予定日が迫っているのに、これでは建築がいつまで経っても進まないではないか。他の国の王族も招いて盛大なセレモニーを予定しているのだぞ?今更日を変えるなんてことになれば……」 「しかし、今日から徹夜で作業をしても、会場予定日までに外装を仕上げるのが精々といった状況であると……建築会社の者からは連絡が来ております。今回ばかりは、責められますまい」 「むむむ……」  この世界で欠けているものは、通信技術だとジャスティンは知っていた。華やかな魔法文明が栄える世界ではあるが、その反面科学の発展は明らかに他の異世界より遅れていると知っている。魔法通信では、断続的で簡単な内容の連絡しか取れない。資材が届かない原因を調べようにも、発送元へ詳しい確認をしにいくためにはこちらから使いの者に馬車を走らせて隣国に確かめに行かなければいけないという状況だった。中途半端にしか舗装されていない険しい山道だ、馬車で走ったところで三日はかかると知っている。往復で六日、そして現地からトンボ返りしてくることなど実質不可能なので、さらに三日か四日プラスされて十日ほどかかるのが常だった。  それでいて、戻ってきて知らされる報告は“調べたけど原因はわかりませんでした!”だったりするのである。時間ばかりかかって、結局満足な情報共有ができない。だが、自分達の魔法は重たいモノを運んだり雷を落としたりといった“物体に力を加える”ものばかりで、遠くの存在と自由に通信できるといった類のものではなかった。通信技術が原始的な無線に限定されているのは、そういう理由もあるのである。 ――劇場の件はもう諦めるしかあるまい。セレモニーの延期を通達しよう。だが……今後も同じようなことが繰り返し起こるとあっては困る。  そこで、ジャスティンが思い出したのは、古代から伝わる王族だけが使える魔法の存在である。  確かに自分達は科学という意味で多くの異世界に劣っている。つまり、他の異世界ではもっと便利に科学を使いこなしている可能性が高いということ。遠くの人間と自由に通信を行い、円滑な情報共有を行い、かつスムーズに工事などの作業を進めるにはやはり高い科学技術か必要不可欠。  異世界の人間になら、それができるというのならば。 「よし、お前達魔方陣の準備をするのだ!」  思い立ったら吉日。ジャスティンは立ち上がった。 「異世界から、優秀なエンジニア、研究者たちを呼んで我が国の通信技術を発展させるぞ!」
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