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人々は自由に選ぶことができるようになり、科学者と魔導士たちは互いにライバル視することによって相互に競争しさらなる技術躍進に努めるようになった。何もかもが順調である。花開いた科学文明は人々の世界中の人々を、そして国王自身の生活をどこまでも豊かにし、異世界人を招いた王の株をも押し上げるようになったのである。
ジャスティンは喜び、次から次へと技術者を異世界に招くようになっていた。最初に異世界転移の魔法を発動させてから、大よそ四百年ばかり過ぎた頃のことである。
ある日。五百歳を過ぎ、長いひげの老人の姿となったジャスティンの前に、一人の技術者が頭を垂れて訴えてきたのだった。
数年前に呼び出された転移者の一人、“クロサワ”という男である。
「国王、ジャスティン。今日は、あなたにお願いがあってやって来ました」
クロサワは、現在のエンジニアチームの総合的なリーダー役を任せている人物だった。地球人は老けるのが早いな、と彼を見るたびに思うジャスティンである。三十代でこの地にやってきた男も今や四十代、眼は落ちくぼみシワが増え、髪にもあちこち白髪が増えるようになっていた。
だいぶやつれているようだ。心配になり、ジャスティンは言う。
「どうした、休暇の申請か?だいぶ顔色が悪いようだ。お前にはコンピューターのソフトウェア開発で特に成果を上げてくれているし、チームをまとめる技量も素晴らしい。皆が感謝している。有給休暇くらい、気兼ねなく取ってくれて構わないのだぞ?」
「……いえ、そうではありません、陛下」
「んん?」
「……私を。いえ、私達地球人を全員、元の世界に帰していただきたい。そして二度と、地球人を異世界転移させないようにしていただきたいのです」
ジャスティンは、怒るよりもただキョトンとしてしまった。
確かに、本人達の同意なくこの世界に彼らを連れてきたことは否定しない。だが、エンジニアたちの待遇を蔑にしているつもりは微塵もないのだ。全員に、王族と同等の屋敷を与え、給料とは別に最高級の家具や服、食事を届けさせている。仕事は内容こそハードだが、きちんと福利厚生や保険の制度は充実させているつもりだ。エンジニアとはいえ、シフト制で実働八時間はきちんと守らせているはず。一体何が不満なのだろう。
「何故そんなに帰りたいのだ。この世界と待遇に不満があるなら申してみよ」
「そういう問題ではないのです。そういう問題では……っ」
クロサワは、疲れたように首を振った。
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