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「陛下。陛下は、私達が成果を上げたら元の世界に帰してくださると言いました。いつ、帰してくださるのです?私も、皆も、全身全霊をかけてこの世界に貢献してきたつもりです。ですがいくら新しい発明をしても、技術をこの国のエンジニアたちに伝えても、ちっとも元の世界に帰してくださる気配がないではないですか……!」
ああ、そこか、とジャスティンは理解した。どうやら、自分達と彼らとでは大きな考え方、基準に齟齬があったということらしい。
成果を上げたら返す。そういう言い方をしたのは、彼らにやる気をもって仕事に望んで欲しかったからだ。だが、実際のところ、多くの技術の革新には発明からさらに時間をかける必要がある。つまり、数か月や一年で“もう大丈夫ですよ”というわけにはいかないのだ。そのつもりでいたのなら、彼らにとっては多少なりに不満が溜まるのもわからないことではない。
ゆえに、王は言うのである。
「元の世界に帰してやったエンジニアもいるだろう?お前の先輩であったマナベは元の世界に帰ったではないか。私は呼び出した順に、少しずつ異世界人を元の世界に帰しているぞ」
「マナベ部長は、この世界に呼び出されてから四十年も過ぎてらっしゃいました……!そんなに長い時間、我々は待てません!」
「何を言う。発明した技術が修正され、定着し、さらなる躍進を遂げるところまで見届けるまでがお前達の仕事だろう?それには四十年や五十年くらいの月日は必要だ。たった四十年五十年で元の世界に帰れるというのに、何が問題だというのだ?」
「――っ!」
信じられない。そんな様子で、ふらふらとクロサワはその場に崩れ落ちた。
「あなたは、人の人生をなんだと思ってらっしゃるのです……?何百年も生きるのが当たり前のあなた方と、百年しか生きられない私達の寿命を一緒にしないでいただきたい。マナベさんは二十歳でここに連れてこられて、ここから元の世界に帰ることができたのは六十歳の老人……もう、家族でさえマナベさんの顔がわからなくなっているかもしれないし、両親は亡くなっているかもしれないくらいの月日なのです。私達にも家族や、人生があるのですよ……!それを無理やりな異世界転生でむちゃくちゃにされて、そんな長い月日をこの世界のために尽くせだなんて、そんな、そんな……!」
「そんなことを言われても、我々にも事情があるのだ」
心底困り果ててジャスティンは反論する。
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