春の名前

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僕はお昼ご飯までの間、本を読んだり絵を描いたりして過ごすことにした。二階にある僕の部屋からは、おじいちゃんの畑が見える。焦げ茶色の土の上には点々と緑の葉が見えた。夏に育つ野菜を植えているのだろう。おじいちゃんは今日もせっせと畑と倉庫を行ったり来たりしている。    ふと、時計を見ると10時半過ぎだった。みんな今頃は算数の時間だろうなぁ。僕がいない間に、みんなは学校で勉強したり、友達と喋ったりしているんだろうな。僕が学校に行かなくても、クラスはきっと何も変わらない。当たり前だけど不思議な感覚がした。そして、何だか悪いことをしている気分になった。  重くなりそうな気持ちを振り払うように、僕はベッドにダイブした。マットレスがトランポリンみたいに弾む。窓からの降り注ぐ、ぽかぽかとした太陽の光が心地いい。それからボーっと天井を眺めていたら、僕は眠ってしまった。  目が覚めたら、もうお昼で一階から良い匂いが漂ってきた。きっとおじいちゃんが台所でお昼ご飯を作ってくれているんだろう。おじいちゃんは野菜やお米を作るのも上手だけど、料理もとっても上手だ。一番のお気に入りはポテトサラダ。じゃがいもがほくほくしていて食べると幸せになる。  僕は目をこすりながら、階段を下りる。台所のテーブルには湯気を上げたトマト味ロールキャベツが僕を待っていた。思わずごくりと喉を鳴らす。とても美味しそうだ……。 「たーんと食べろよ。まだ鍋の中に残ってるからな」  おじいちゃんは鍋を指さした。僕は頷いて椅子に座って手を合わせる。食べやすい大きさにロールキャベツを切り分けて口に運ぶ。とろけそうなほどに柔らかく、噛むほどに甘いキャベツとお肉が口の中で混ざり合う。飲み込んでしまうのが、もったいなかった。  おじいちゃんは箸を動かす手を止めて、僕の顔を覗き込む。 「どうだ? じいちゃんの作ったキャベツ美味しいか?」 「うん! すっごく美味しいよ!」  僕の言葉でおじいちゃんは、くしゃっと笑った。開けた口の中の金歯がキラリと光る。おじいちゃんのつくる野菜やお米は世界一美味しい。
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