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夏のカブトムシ
もしも、僕がアイスだったら10秒で溶けてしまいそうな暑さだった。夏休みに入ってから、ミンミンとうるさい蝉の声が目覚まし時計替わりになっている。朝、目が覚めて一番に向かうのは玄関で飼っているカブトムシのところだ。
毎年毎年、夏になると雑木林から畑にカブトムシが飛んでくる。それをおじいちゃんが捕まえて僕にくれる。畑に飛んでくるカブトムシはペットショップで見るよりも、からだも角も大きくてかっこいい。
カブトムシを育てることのできる夏が僕は好きだった。なのに、昨日まで元気だったオスのカブトムシが朝起きたら動かなくなっていた。最初は寝ているのかと思って、指で突いてみたけれどピクリとも動かなかった。
オスメス合わせて4匹いる中の一番大きなオスのカブトムシ。僕のお気に入りだった。しかも、三日前におじいちゃんが捕まえてくれたばっかりだった。何がいけなかったんだろう。エサのゼリーだってちゃんと与えていたはずなのに。
僕は大切な宝物を無くしてしまったみたいに悲しくなった。生温かい涙がほっぺたを濡らして床に落ちる。そのとき、おじいちゃんが玄関から入ってきた。トマトやナスが入ったカゴを手にして。こんなに暑いのに、おじいちゃんは今日も畑でお仕事をしている。
「どうしたんだ」
「……おじいちゃんが、この間捕まえてくれたばっかりのカブトムシが死んじゃった……昨日まで元気に動いていたのに死んじゃった……」
「そうか……じゃあ、ちゃんと埋めてやらねぇとな」
「うん」
僕とおじいちゃんは、「お墓」に向かった。庭に生えている大きな木の下、そこが「お墓」だ。今まで飼っていたバッタやカマキリ、金魚、去年死んでしまったカブトムシたちが土の下で眠っている。僕はその場所にときどき草花を摘んでお供えしていた。
シャベルで地面を掘っていく。頭の上では太陽がさんさんと輝いて、僕を焦がしていた。おでこから汗がブワッとにじむ。吐く息が熱かった。僕は地面を掘り続けた。土が固くてなかなか進まない。
おじいちゃんは側で僕の様子を見守っていた。腕の半分が埋まるくらいの深さまで掘り進めて、僕はシャベルを動かす手を止めた。死んでしまったカブトムシをそっと穴の中に置く。動かなくなったカブトムシをじっと見て、僕はまた泣いてしまった。
おじいちゃんが僕の隣にしゃがんで、掘った穴を覗き込んだ。
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