秋の落ち葉

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秋の落ち葉

 紅葉を見に行くのは我が家の恒例行事だ。僕は紅葉よりもお母さんが作ってくれるお弁当の方が楽しみだ。梅や鮭、ツナの入ったおにぎりに唐揚げ、甘い玉子焼き。こんな豪華なお弁当は一年に一回しか食べることが出来ないから、僕は秋のお出かけが好きだった。  でも、おじいちゃんは留守番だ。秋は畑仕事が忙しいから。おじいちゃんと一緒に行けないのは残念だけど仕方ない。秋はお米や野菜がいっぱい獲れる時期だもの。  赤や黄色に染まった森は綺麗。おじいちゃんとも一緒にお弁当を食べて、紅葉を見れたなあ。そう思った僕はおじいちゃんへお土産をあげることにした。真っ赤なモミジの葉っぱ。手を広げたみたいに大きな葉っぱを選んだ。  家に帰って葉っぱをプレゼントしたら、おじいちゃんはすごく喜んでくれて僕も嬉しくなった。葉っぱが枯れないようにおじいちゃんは、モミジを挟んだ栞を作って一枚僕にくれた。  本を読むことが楽しくなりそうだ。きっと栞を挟むたび、本を開くたび思い出す。秋色の綺麗な山々の景色を。栞まで作れちゃうなんて、やっぱりおじいちゃんはすごい。 **  紅葉を見に行ってから、二週間後の寒い朝のことだった。ひんやりとした空気で目が覚めた。いや、本当はそうじゃなかった。一階が何だか騒がしかったから目が覚めた。僕は二階で寝ているのに、お母さんとお父さんの大きな声が聞こえてくる。  僕は目をこすりながら階段を下りていく。声はおじいちゃんの部屋からだ。お母さんとお父さんが暗い表情で立ち尽くしていた。二人とも必死な形相で何だか悪いことが起こったんだと思った。 「……どうしたの?」 お父さんがハッとして僕の方に近づいてくる。僕の肩に手を置いてお父さんは震える声で言った。その顔は無理やり笑っているようだった。 「大丈夫……大丈夫だよ。何も怖くないから」 「怖い? 何が? おじいちゃんは?」  お父さんが覆いかぶさるように前に立っているから、僕の立つ位置からはおじいちゃんが見えない。僕はお父さんの陰からおじいちゃんを見ようとした。けれども、お父さんが僕の腕を強く掴んで見ることはできなかった。 「いいかい。よく聞くんだ」 お父さんはしゃがみこんで、僕に目線を合わせる。表情が固かった。怒られるのかもしれない。僕はぎゅっと目を閉じた。 「おじいちゃんは────」
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