秋の落ち葉

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***  おじいちゃんが死んでしまった。まだ、話したいことも一緒に行きたいところも、たくさんあったのに。おじいちゃんの作る野菜もお米も、もっと食べたかったのに。悲しみがいっぱいで溢れているのに泣いている暇もなく、時間が過ぎていく。  あっという間にお葬式は終わってしまって、気づいたときには写真のおじいちゃんがお仏壇で微笑んでいた。毎朝、起きてすぐに「おはよう」と挨拶するようになっていた。  抜け殻のように学校に通っていた僕を、お母さんもお父さんも友達も心配してくれた。けれど、僕の心は沼の底に沈んだままだ。沼の底から動けそうにない。学校から家に帰っても、おじいちゃんはいない。お家にひとりぼっち。僕は誰もいないところで毎日泣いた。  吐く息が白くなった朝、僕はお父さんとお母さんと一緒にお墓に来ていた。お墓と言っても石がズラリと並んでいるようなところじゃなくて、公園みたいな場所だった。石の代わりに葉っぱのない木々がズラリと並んでいる。  今日は「のうこつ」ということをするらしい。おじいちゃんの骨をお墓に埋めるんだって。これで本当にお家からいなくなっちゃう。本当のお別れ。おじいちゃんは土の下で、僕は土の上で生きていくしかない。  骨つぼが土の下に消えていく。骨つぼの全部が隠れてしまう前に僕は目を背けてしまった。その瞬間を見てしまったら、もう永遠におじいちゃんに会えなくなってしまうと思ったから。  ポロポロと涙が出てくる。天国にいるおじいちゃんが心配しないように、泣くことを頑張って我慢していたけど、この時ばかりはダメだった。きっと涙の蛇口は壊れてしまっているんだ。だから止まらない。どうやっても止められない。 「見てごらん」  お母さんの優しい声で顔を上げる。小さな苗木。そこらへんに落ちてそうな枝が僕の目の前に立っていた。 「これがおじいちゃんだよ。おじいちゃんは、この木に生まれ変わるのよ」  この枝がおじいちゃん。大きな体であったかい手のおじいちゃんが、こんなにも小さな枝になってしまった。僕は信じられなかった。おじいちゃんは言った。死んでしまったら星や花、風に雲になるって。  だけど、僕にはどうしてもそう思えなかった。この枝に葉っぱがついて、花が咲くなんて想像できなかった。僕は信じたくなかった。おじいちゃんが死んでしまったことを。
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