冬送る花

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冬送る花

 「のうこつ」が終わってから僕は毎日、お墓参りに行っておじいちゃんに話しかけた。毎日毎日、枝に葉っぱは出てきてないか花は咲いてないか、じっくり観察してみたけれど何も変化はなかった。  晴れの日も、雨の日も風の日も僕はずっとお墓に行き続けた。それでもやっぱり何も変わらなかった。おじいちゃんは僕にウソをついたのかもしれない。  僕を安心させるために、死んでしまったら花や星や風や雲になるなんて言ったのかもしれない。僕はだんだんそういうふうに考えるようになっていった。  あの夏死んでしまったカブトムシもおじいちゃんも、もう二度と帰ってこない。僕のことなんか、きっと忘れてしまうんだ。僕がどんなにおじいちゃんのことを好きでも、そう思うことはムダなんだ。  おじいちゃんが死んでから一年経って、僕は毎日のお墓参りをやめた。そんなことしたって何も意味はないって分かったから。 **  おじいちゃんが死んでから5年が経った。僕は小学校最後の学年に入ろうとしていた。新学期目前の3月下旬、春のお彼岸でお墓参りに来ていた。  あの枝が何の木なのか、どんな葉をつけるのか、どんな花を咲かすのか未だに分からなかった。もう会うことなんてできないのに、なんでお墓に来るんだろう。  僕はお墓に来るたび、そんなことを考えていた。面倒くさいな、早く帰りたいな。それが本心だ。おじいちゃんが聞いたらきっと悲しむと分かっているのに、ついそう思ってしまう。  気乗りしない足を進める。うつむきながら墓地へ向かう。たどり着いたところで、お父さんが感嘆の声を上げた。 「あぁ!…………やっと、咲いたね」 「そうね。ほら見て」  お母さんが僕の脇腹を小突いた。顔を上げて枝に目をやる。僕はハッと息を呑んだ。5年前、頼りなく弱々しいと思っていた枝は、もうそこには存在しなかった。  きちんと樹木だった。どっしりと太い幹を持つ樹木には、まだまだ程遠いけどそれは樹木だった。春の光に手を伸ばすような枝の先に花が開いていた。  小さな小さな二輪の花が寄り添うように咲いていた。淡いピンク色の花びらが青空を掴んでいる。こんなにも小さくて、風が吹けば散ってしまいそうなのに花は生きていた。確かに生きていた。  その花を見て僕は喉の奥が苦しくなった。目頭がじんわりと熱くなる。頬に一筋の涙が伝った。 「……なんだ。おじいちゃん、僕のこと忘れてなんかいなかったんだね。本当に花になって帰ってきてくれたんだね」  見間違えるはずない。だってこの花は僕の────
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