◆3 路地裏

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◆3 路地裏

 鈴木の車は、片側二車線道路の右側をしばらく走っていた。俺が乗り込んだタクシーは左側を走っており、約二台分の距離を空けてその後ろを追っている。  俺の姿を見つけられないように後部座席左側に寄って、やつの車を睨んだ。  すると、信号で停まった時に運転席のおっさんがこちらをちらりと見て、愛想のいい笑顔を浮かべてきた。 「お客さん、もしかして警察? 犯人でも追ってるの?」 「……そう見えるかよ」 「なわけないか。警察なら、タクシーなんて使わないよねぇ。てことは探偵? はたまた裏仕事の人?」  煩いやつを捕まえてしまった。  舌打ちすると俺の不機嫌がわかったのか、おっさんは「ああ、青だ」と小さく呟いてアクセルを静かに踏んだ。個人タクシーなのだろう。運転席と後部座席の間には透明板などの仕切りもなく、やたら消臭剤の香りがきつい車内だった。  それにしても鈴木のやつ、どこに行くっていうんだ。  煮えくり返ってくる腹立たしさを溜めこんで、やつの車を睨みつける。  ボロい車だ。黒の軽自動車には、あちこちに擦り傷や凹みが付いていた。金の羽振りが良かったあいつにしては、しょぼい車だと感じた。車に興味がないのかもしれないが、それでもどこか哀愁を漂わせる車だ。  そんなやつの車は、いくつかの右折左折を繰り返すと、とあるビルの横に路駐した。俺は運転手のおっさんに待つよう命令すると、車から降りたやつの後を追った。  鈴木は、黒いジッパー付きの鞄を抱えるように持っていた。おそらくあそこに、今日見た大金が入っているのだろう。鈴木はまわりの目を気にしながら道を歩く。俺は電信柱や建物の陰に時折隠れ、やつに気づかれないように注意して尾行をした。  しばらくすると、鈴木は細い道に入った。いや、道とは言えないだろうビルとビルの隙間──今日、俺が鈴木に殺されかけたような路地裏にやつは入った。  よっぽど、路地裏が好きなんだな。  皮肉にそう心で笑い捨てて路地裏を覗きこむと、そこに鈴木以外の男が二人、立っていたので驚いた。鈴木はその男たちと対面して、鞄を引き渡している。  鞄を受け取った男たちの体格はやたら良く、鈴木がまるで小型犬かのように弱そうに見えた。あれは、どう見ても堅気じゃないな。  耳をそばだてると、上擦った鈴木の声が聞こえてきた。 「こ……これで、もういいだろう?」
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