5人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、今までに聞いたことがないような弱々しくも頼りない声だった。俺へと向けていた自信満々の声音とはまったく違う、かすかに震えた声を出している。
そんな鈴木の前に立っている男は、袖まくりしをした筋肉がやたら目立つ熊のような男と、長身長髪でピアスだらけの細身の男だった。筋肉男が、鈴木に手を伸ばす。どうやら顎を掴んだようだ。長髪男は受け取った鞄を脇のコンテナの上に置くと、中身を確認し始めた。
「何、甘いこと言ってんだよ平井ぃ……」
「ひっ」
筋肉男は低く唸る。背中をこちらに向けている鈴木の踵が、小さく浮いた。……平井?
平井と呼ばれた鈴木は訂正するでもなく、顎を掴まれたことに少しでも抵抗するかのように、両手を筋肉男の腕に添えた。
長髪男は鞄の中身を確認し終えたのか、すっくと立ち上がる。
「やっぱり、これじゃあ足らないねぇ。あと百万、どうにかならなかったの?」
「え、前は、これだけあればもういいって……」
顎を掴まれていた鈴木はそのまま横の壁に押しつけられると、締め上げられた。筋肉男はまるで、暴れる魚をおろす板前のように、苦しむ鈴木を淡々と見ていた。
「お前、まだ自分の立場が分かってねえんだな。俺らが足りないって言ってんだから、足りねえんだよ。また稼いでこい」
「そ……んな」
ここからは見えないが、きっと鈴木の瞳には今、絶望の闇が広がっているのだろう。
コンテナに座った長髪男が足を組んで、筋肉男に「おい、それ以上は脅してあげんなよ」と柔らい言葉をかけるが、どこか冷たい感情を宿した声だった。
「あと百万。それで許してやるよ」
「………そんな……そんな……」
緩められた手からようやく解放され、鈴木はずるずると背中を壁に押しつけたまま座り込んだ。男二人は、そんな鈴木を見下ろすと薄笑いを浮かべる。
すると突然、鈴木は手と膝を地面につけ、頭を同じように地に伏した。土下座をしたのだった。
「た、頼む、もう勘弁してくれ! 俺もう、これ以上、金なんか……!」
すると、一気に筋肉男が「ああん?」と怪訝に眉をひそめた。俺は「あーあ、やっちまったね」と思った。
最初のコメントを投稿しよう!