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変な重みに目を開けば、そこには俺の顔を覗きこんでいるあの女の顔があったのだ。するりと、右手で俺の頬を撫でている。
なぜ、ここに?
眠気が強くて、最初はよくわからなかった。
俺の頬を撫でた女の手は、首元をなぞり始め、その口元からは、いつもの安い笑みとは違う微笑みが浮かんでいた。
「もう、中学生なんだってね」
女は呟いた。
いまさら何で当たり前なことを、と目が覚め始めた俺は眉間にしわを寄せた。触られた部分から、嫌悪感が生まれる。
「お父さんと違って、綺麗な顔をしているわ」
女の爪は伸びていた。長いそれで、首筋をゆっくりと辿る。
パサリと、女の髪が俺の顔に落ちた。女が俺の胸元に顔を埋めたと理解したとき、ようやくこれは変だぞと、俺は女の肩を押した──が、女は予想していたのか力を込めており、あまり体を離すことはできなかった。
「お前……狂ってんのか?」
情けないことに、そのときの俺の声は上擦っていた。
こんな女相手に抱きたくなかった恐怖というものが、そのときの俺の心に侵食していた。触られた部分から、腐敗していくような屈辱感と嫌悪感。そういったものが、俺の手から力を奪っていく。
「……狂ってる……? ……そうね。そうかもしれないわ」
女は何がおかしいのか、くくっと小さく笑った。
そして魔女のような爪先で俺の顎をなぞり、昇りはじめの上弦の月のような目元で俺を見つめた。
「あなたが悪いのよ。あなたが、そんな目で私を見るから……」
わけがわからなかった。
俺は何もしていない。
ただお前がいなくなればいい、そう思って女と食卓を並べていただけだ。
気づけば、女の衣類ははだけていた。肩からはキャミソールの肩紐が垂れていて、それが俺には鎖のように見えた。
縛られてしまう。この魔女に。
俺は、近づいてこようとする女に両手を突っぱねると思いきり突き飛ばし、ベッドから落とした。ドサリと肉が床を叩く音とともに、何か金属っぽい音も聞こえたが、必死な俺はそんなことなど気にしなかった。
「ふざけんなよ……テメェ!」
怒鳴りたかったのに、笑っちまうくらいに震えている声は小さかった。床に尻餅をついた女は、ぽかんと間抜けに口を開け、そんな俺を見上げていた。
物音を聞きつけたのだろう。父親が俺の部屋に入ってきた。
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