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その日も俺は、ベッド代わりに図書室へ足を運び、椅子に寝転がっていた。
三つの椅子はいつものように、俺の体重を静かに受け止めている。静かな放課後の図書室。「不良の恩田くん」がそこで寝ることは有名だったらしく、誰も図書室の奥スペースへ寄ることはなかった。
図書委員も近寄ることはない。というか図書室自体の利用者も少ない、寂れた場所だったのだ。俺が寝床として利用しているだけでも、感謝しろと言いたくなるくらいだった。
気持ちよくまどろんでいた俺は、欠伸をひとつ口から逃す。
すると、パラリ……と何か、紙がめくれる音がかすかに聞こえた。
誰かが近くで本をめくっている。めずらしく、この図書室の本来の目的を果たそうとしている人物が来ているのだとわかった。
そんなことなど関係のない俺は、静かに寝返りをする。テーブルの方へ身を向けたから、向こう側の椅子の脚が見えた。こちらと同じように三脚ならんだ、色気もない無機質なスチール製の脚。その向こう側に、人間の足がならんだ。
女子生徒の足だろう。スカートから伸びた生足に白ソックス。履いているスリッパの色で、同じ三年生だとわかった。
そいつはあろうことか、真ん中の椅子を引くとそこに座った。どうやら、俺がここで寝ていることに気がついていないらしい。
これはどうしたものかと思ったが、べつにどうする必要もないなと俺は考える。座っている女子生徒のスカートは、残念ながら校則通りの長さであったため、その中身を楽しむこともできないし。それなら用はねえな……と、またうとうとし始めた。
が、しばらくして「うぅ」と変な声が聞こえた。鼻をすする音も。一体なんだ? と訝しげに思った俺は身を起こした。すると、
「え?」
と女子生徒は、突然現れた俺に驚いてこちらを見た。涙をぽろぽろ流している瞳とぶつかる。
女子生徒は、まあまあ可愛いとも言える顔をしていた。前髮ぱっつんの二つ結びがなんとも幼い印象だったが、まん丸い目をパチパチさせて、こちらを見ている顔はどこか子犬のようだった。
「ひ、人?」
女子生徒は読んでいた本を立てて、上半身をのけぞらす。
本当に俺の存在に気づいていなかったんだな、と呆れた俺は、欠伸をまたひとつ漏らした。
「こっちが先にいたんだけど」
「す、すみません。私、気づいてなくって」
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