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となりのクラスだった。朱美は笑うとえくぼが出来るらしく、その林檎のようなほっぺに影を作った。
「ふうん。俺はB組の恩田。ここは俺の寝床だから、邪魔すんなよ」
「えっと、移動したほうがいい?」
「しなくていい。うるさくすんな」
「わ、わかった」
朱美は生真面目に頷いた。変なやつ。
俺がふたたび椅子に横たわり寝始めると、パラリと、また紙がめくれる音が聞こえた。
静かな図書室に、新たに加わった慣れない音。
それは何だかやけに優しく響いて、眠る俺の心地を良くしてくれた。
毎日ではなかったが、朱美はときおり図書室に来ては、俺のそばで本を読むようになった。
借りて家で読めばいいのに、彼女はなぜかそのテーブルに座り、本を読む。怒鳴ったり追い払ったりすれば来ることもなかったのかもしれないが、俺にとっては心地のいい紙をめくる音が聞こえてくるので、べつにそれでよかった。
会話は、ごくたまにしていた。俺から話しかける時もあれば、向こうから話しかける時もあった。
「どうしてここで寝るの?」
「保健室だと、教師がうるさいだろ」
「なるほど」
「そっちは何で二つ結びしてんの? おろさねえの?」
「だって本読むとき、邪魔くさいじゃない」
「なるほど。色気のねえ女だ」
「うるさいなぁ」
そんな、どうでもいい内容ばかりだった。
でも、そんな会話を重ねるうちに、俺と朱美の距離は近づいていった。そのうち朱美もくだけた態度になっていき、笑顔を多く見せるようになった。朱美の笑うとできる頬のえくぼに、何度も指でついてみたいと思ったが、まあそれは、しなかった。
「恩田くんは、本は読まないの?」
ある日、朱美はそう聞いてきた。愚問とも言えるその言葉に、俺はただ紙パックジュースをすする。
「読まねえよ」
「それは、もったいない」
朱美はなぜか、嬉しそうに笑った。わかっていた答えが返ってきたのだろう。持っていた本を、こちらにずいっと出してきた。
「これ読んでみる? おもしろいよ」
「は? 読まねえし」
条件反射で、差し出されたそれを押し返す。しかし朱美は、無理矢理それをこちらに返そうとする。こいつもだんだん、俺に慣れてきていた。
「いいじゃん、読んで毒になるわけでなし。それに、これ短いからすぐに読めるよ」
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