◆5 図書室

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 いいさ。こんな偏差値の低い高校を出たところで、たかがしれている。そういった無気力な気分を持て余して、流れるように高校生の時間は過ぎていった。  野郎だけの学校は、馬鹿ばかりで楽だった。ほっといてほしいオーラを出せばかまってくるやつもいなかったし、俺はただひっそりと、影のように教室に溶けこんでいた。とても根暗なやつだと思われただろう。  卒業近くになると、最低の出席日数だけ満たすことにした。あとは外で私服に着替えて、街で適当に時間を潰すことが多くなる。もうその頃には、体だけは一人前にでかくなっていたので補導されることもほとんどなくなっていたのだ。  そして、その頃からだった。女を適当にナンパして、貢がせるようになったのは。  どうやら俺の容姿は女にとっては良く見えるらしく、馬鹿そうな女に適当に声をかければ、案外あっさりとついてきてくれた。  狙い目は年上の女だ。飯もおごってくれるし、うまくいけばホテルまで連れて行って金もくれた。男も女も同じだと思った。若さには、値打ちがあるのだ。ただ、誘う女は香水臭くないやつを選んだ──あと、爪が長くないやつ。  そんな生活を続けて数年。  気づいたら成人と言える年齢もとうに過ぎて、俺は二十三歳になっていた。  こんな生活、あとどれくらい続けられるのやらと考えていたが、それにもなるべく蓋をする。  いいじゃねえか、どうなっちまっても。  一度狂った歯車は、もう元には戻れない。飛んで行った歯車に戻る場所は、どこにもない。入り込もうとしても、戻れるスペースはどこにもなく、ぐるぐる回るネジたちを傍目から見つめるだけなんだ。ああ歪だな──と、思いながら。
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