◆6 コドク

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「密閉された空間にね、虫や生き物をたくさん詰めこんだら、どうなると思います? 殺しあうんですよ、ええ。何てったって、食いモンなんてそこにはないんですからねえ。真っ暗闇のなか、光のない中で殺しあうんです。最後の一匹になるまでね。そんで最後に生き残ったやつには強い毒があるとか言って、呪いに使うらしいんです。いやあ、昔流行りましたよね、デスゲーム系の小説とか映画。あんな感じなんですかね」  そんなの知らねえよ。気持ち悪いこと言うんじゃねえよ。  そう言いたかったのに、おっさんの気色悪い声は止まらないので、口を挟むこともできなかった。 「私も一度、挑戦してみようかと思いましてね、木箱を用意してやってみたんです。いろんな種類がある方がいいかと思って、たくさん集めたんですよ。夏でしたからね。蝉に蝶々にカブトムシ、ゴキブリに蛙に鼠。蓋をした時はすごかったなぁ。蝉がワンワン煩くって。でも、すぐにその声もなくなりましたからね。すぐに食べられちまったんでしょうね」  木箱の中、無理矢理詰めこまれた小さな生き物たちが蠢く姿を想像しそうになって、気持ち悪くなる。ぐっと嫌な唾を飲んだ。 「でも私も馬鹿でしたよねぇ、鼠なんか入れちゃうんだから。そりゃあ、木箱に穴を開けて逃げられるってもんですよ。いやあ、あん時は大惨事だったなぁ」  そうしてハッハッハッと笑うおっさんの話を──俺はどうして、最後まで聞いていたのだろう。  気持ち悪さにムカついた俺は、前方の運転席のシートを後ろから足蹴にした。 「気色悪いこと、ベラベラ喋ってんじゃねーよ!」  嫌な想像をさせられたことに腹を立てて、二度三度と蹴りを入れる。 「おや、すみません」  おっさんはさして、悪気もなさそうにそう答えた。このやろう、車だけかっぱらって放り出してやろうか。そんなことを考えたが、車の運転ができるわけではないのでそれは諦めた。  気色悪いおっさんは俺を乗せたまま、また静かにタクシーを走らせる。外ではもう夕闇が迫っていて、冬の夜の早さに驚かされた。  走っているこの山道も、相当に奥なのだろう。途中の看板に「飛び出し注意」や「動物注意」といったものが多くなってきた。人里から、うんと遠くなっているのだ。 「……いやあ、いいですよねぇ。コドクって」  懲りていないのか、おっさんはまたそんなことをしみじみと言い出した。
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