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しかしそんな視線もやつには蛙の面にションベンなのか、やたら口角を上げてこちらを見てきた。
「変わってないねえ、恩田は。ま、俺は中学のときは目立たなかったからな」
なんだ、中学の同級生だったのか。
少し体を向けた俺に対し「それに、ありきたりな苗字だし?」と付け加えて、鈴木は女みたいに首をかしげた。面倒くさい。適当に話を合わせておけ。
俺はもう一度前を向きビールを半分ほど飲みこむと「あー、いたかもな」なんて、思ってもいないことを言った。
「今、何してんの?」
俺が適当に返したことを分かっているのかいないのか、鈴木はさらに会話を続けようとした。
面倒くさいと思いつつも、酒を飲むと口が滑らかになる俺は、良い酒のあてが出来たとも考えていた。
「別に何も。のらりくらり」
「……もしかして、働いてない?」
「これが、ちゃんと働いてるやつの風貌かよ」
体を鈴木に向けながら、言ってやった。
まだ夜とも言えないこの時間。スーツも着ずに、ラフなチノパンにくたびれたシャツ、履き潰されたスニーカーを組み合わせている俺は、どう考えても会社員には見えなかっただろう。
「なんだ、プーかよ」
どこかホッとしたように、鈴木は笑った。
「プーじゃねえ、フリーターだ」
女の金とバイトで、何とか食いつないでいる。その日暮らしを続けていたが、べつにそれが恥だとも思っていなかった。
だって、そうだろう?
俺はべつに、親の脛をかじったり借金をしているわけでもない。たまに女が好きこのんで払ってくれる行為に、甘えているだけだ。その分の礼だってきちんとしている。たまにスロットで当てて、それをパァッと使う。たまに本気でやばいな、と思ったらバイトを探して何とかする。そうやって、高校を出てからは生きてきた。
鈴木はそんな俺をどう思ったのかは知らないが、遅れて届いた自分のビールを煽ると、こちらをじっと見てきた。
「もったいないね。お前くらいの顔なら、ホストでもできたんじゃねぇか?」
「やだよ。あんな男の足の引っ張り合い場」
一度だけ、金につられてやってみたことはあった。夜道でスカウトされ、一日体験とかいうのをしてみたのだったが、これがもう、最悪だった。
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