◆2 詐欺

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 しかしそんな視線もやつには蛙の面にションベンなのか、やたら口角を上げてこちらを見てきた。 「変わってないねえ、恩田は。ま、俺は中学のときは目立たなかったからな」  なんだ、中学の同級生だったのか。  少し体を向けた俺に対し「それに、ありきたりな苗字だし?」と付け加えて、鈴木は女みたいに首をかしげた。面倒くさい。適当に話を合わせておけ。  俺はもう一度前を向きビールを半分ほど飲みこむと「あー、いたかもな」なんて、思ってもいないことを言った。 「今、何してんの?」  俺が適当に返したことを分かっているのかいないのか、鈴木はさらに会話を続けようとした。  面倒くさいと思いつつも、酒を飲むと口が滑らかになる俺は、良い酒のあてが出来たとも考えていた。 「別に何も。のらりくらり」 「……もしかして、働いてない?」 「これが、ちゃんと働いてるやつの風貌かよ」  体を鈴木に向けながら、言ってやった。  まだ夜とも言えないこの時間。スーツも着ずに、ラフなチノパンにくたびれたシャツ、履き潰されたスニーカーを組み合わせている俺は、どう考えても会社員には見えなかっただろう。 「なんだ、プーかよ」  どこかホッとしたように、鈴木は笑った。 「プーじゃねえ、フリーターだ」  女の金とバイトで、何とか食いつないでいる。その日暮らしを続けていたが、べつにそれが恥だとも思っていなかった。  だって、そうだろう?  俺はべつに、親の脛をかじったり借金をしているわけでもない。たまに女が好きこのんで払ってくれる行為に、甘えているだけだ。その分の礼だってきちんとしている。たまにスロットで当てて、それをパァッと使う。たまに本気でやばいな、と思ったらバイトを探して何とかする。そうやって、高校を出てからは生きてきた。  鈴木はそんな俺をどう思ったのかは知らないが、遅れて届いた自分のビールを煽ると、こちらをじっと見てきた。 「もったいないね。お前くらいの顔なら、ホストでもできたんじゃねぇか?」 「やだよ。あんな男の足の引っ張り合い場」  一度だけ、金につられてやってみたことはあった。夜道でスカウトされ、一日体験とかいうのをしてみたのだったが、これがもう、最悪だった。
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