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「蛇の道は蛇、てね。お前も相当、暗い道歩いてんだろ」
その言葉を受けた俺はハイボールを口に運ぶと、どかりと背中をソファーに預けた。
「べつに照らされるような道でもねぇからな。……つうか、勝手に決めつけるんじゃねーよ」
「悪い悪い。そういう意味じゃなくってさ」
俺が本気で怒っているわけでないとわかっているのだろう。鈴木は眉を少し下げただけで、またあらたまってこちらに視線をよこした。
「お前には、女に声をかけて欲しいんだ」
「女?」
そう、と鈴木は笑った。やつが言うことをまとめると、こうだった。
俺は鈴木に指定された女に声をかけ、注意をひく。その間に、鈴木が金になるような細工を女の持ち物に施す──それだけだと。
それは、何とも簡単な内容だった。
俺がすることといえば、女と喋る、それだけだったのだから。
「細工って何すんの?」
「それは企業秘密。ただ、バレると手錠は確実だね」
女の気をひける仲間が必要だったんだよ、と鈴木は笑った。
ただ声をかけるだけではダメらしい。数分は女を引きとめて欲しいとのことだった。気を引いた後は、女をそのままナンパしてもいいぜ、とやつはつけ加える。
「報酬は三分の一渡す」
「折半じゃねーのかよ」
「おいおい、実際に動くのは俺なんだから」
「でも、俺は顔が相手にバレちまうんだろ。リスク、背負ってるだろ」
「そこはほら、変装しろよ」
三分の一、これは曲げられない……とやつは念を押す。
仕方なく俺は、それを了承しその「イイハナシ」とやらを引き受けることにした。
「お前なら、そう言ってくれると思ったよ」
鈴木は魚眼のような目を細めて笑った。そういえば、スズキなんて魚がいたよな……なんて、俺はのん気にも思った。
そうして俺たちは、二人一組でさまざまな女たちから金を巻き上げた。ただ、どうやって金を回収しているのかは、俺にはよくわからなかった。
俺はただ、指定された女に声をかけ、愛想を振る舞い、女のカバンに手を伸ばす鈴木を見逃すだけだった。時には鈴木は女にも近寄らずに、スマホに「もうオッケー」というメッセージを飛ばすこともあった。やつが裏で何をしているのかなんてわからなかったが、興味もなかった俺はただ指示通りに女に声をかける。
鈴木が指定する女のタイプにも、とくに偏りはなかった。
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