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ある時は、きちんと写真まで用意をして声をかける場所まで指定する美女だったり、ある時は、スーパーに出向いて適当に指したように見えるおばさんに声をかけさせられた。またある時は、女子高生とメッセージのIDを交換してきてとスマホを渡されたり、街ですれ違った地味目の女に突然声をかけてこいと言われた時もあった。
それがどういった目的で、どういった手法で詐欺を働かせるためのステップになっているのかなんて、俺にはわからなかった。
ただ鈴木には、そこからさまざまな細工や仕掛けを施して、女たちを破滅やあるいは自滅に誘い込むルートが、いくつか用意できているようだった。
「ねぇ、ユキくん。最近ね、変な視線を感じるの」
声をかけてそのままつき合うことになった女の一人が、ある日突然そう言った。
俺を名前で呼ぶなと何度言っても聞かないこの女は、その言葉を最後に俺の前から姿を消した。正直──せいせいしたと思った。
そんなことを九月から始めて、約三ヶ月続いた。
しかし、いっこうに金が回ってこない俺は苛立ち、鈴木を呼び出した。あれだけさんざん女に声をかけさせ働かせたのに、やつはまったく金のかの字も出してこなかった。まとまった金が欲しかった俺は、早く報酬をよこせ、とやつに何度も伝えた。
そして今日。
俺は、鈴木の指定する路地裏へとのこのこやってきた。大金を見せられ、有頂天になり札を数え始めた時に、殺されかけたのだった。まぁ何とも──情けない話ではある。
「あんにゃろう……、最初から俺は捨て駒のつもりだったな」
ぼやきを公園頭上の空に向けて放つ。
吐き出した息の白さはすぐに消えて、やたらと高く澄んだ空だけが視界に広がっていた。
そうだ。俺は捨て駒だったんだ。
最初から金など、三分の一どころか、一文も払うつもりなどなかったのだろう。詐欺への肝心のとっかかりに打ってつけの俺を、たまたま居酒屋で見つけ、利用した。俺はそれを見抜けず、利用された。
悔しいが、単純なそれだけの話だった。
それでも殺されかけたのは──とんでもない誤算だったけれど。
「あいつマジ、次に会ったら許さねぇ」
そう、呟いたときだった。
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