初めまして

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初めまして

 「お〜 ここね」  「なかなか えーよ ふんふん合格つけたる」  右手にソファーとその正面にはテレビが見える。そして、ここからの景色の先には真っ直ぐドアがある。その向こうで何やら音がして彼女は入ってきた。  今朝 使った食器を水切りしていた中からコップを取り出した こんもんかな。  休日の午前起きは久々だった。 と言うより、まともな休み自体が久し振りなのだ。ここ数ヶ月ありがたい事に仕事が立て込んでいて週イチの何とか休みという日は前の夜にアラームを解いて昼まで寝ては明日からまた仕事だと思いふけるだけの日だった  忘れてはいけない またアラームをかける事を  朝とんでもない時間との戦いになる。 私は気分が良かった。 ひと山終えた仕事の達成感とそして何といっても明日も休みなんだという余裕から身体にやる気が満ちていた。 「よーーし!」 出窓に合わせて腰をかがめた彼女が見つめる。 眼差し同士 少し無言の時。 そしてコップの水をゆっくり入れ始める 「ええよ もう充分や ありがとさん」 口を尖らせコップに余った水を見直しまた入れ始めた。 「デカいねんコップ もうえーって」 止めてくれ 死んでまう ほんの少し入った水を飲み空にしたコップを隣に置いた。 「いや〜パンパンや 当分えーわ」 じっと見つめる彼女。  ドキドキしてまう 「テン君よろしくだよ」 微笑みながらオレのチャームポイントである棘を彼女は優しくたたいた。 「また 刺さるで」    新しい場所は満足としよう 今日からここが2人だけの空間。 では ない。 ソファーの脇の下からだった。 ハテナが浮かぶと同時にソファーの前にあるガラステーブルにそいつは飛び乗った。  猫やん! 新しい何かを感知してテーブルの上から真っ直ぐオレを見つめ続けていた。 彼女はそいつの側に寄り頭を撫でながらオレを指さして紹介した。 「テン君だよ。いーでしょ?」 …… 「テン君です」  オレから話たったわ新人やしな 置き物の様に座ったのをやめて立ち上がり前足を何度か踏みならしながらもオレからは目を離さない。そして瞬間 横に飛び乗り間近で無言の圧である。 もう1度オレから言葉にしてお前は名前なんや聞こうと思った矢先そいつはもう窓に目を向けた。 窓からは暖かい日差しが入り その先を見るそいつの目はキレイで不覚にも見とれてしまっていた。 先程まで座ってこっちを見てるだけの彼女がオレらの前に立ちオレにこう言った。 「キジ君だよ」 「ねっ」 向きを変えてそいつを撫でながら言った。  フッ  笑うわ〜  キジ君?……  あーキジトラね  アンタ簡単やな 笑てまう〜 そいつは撫でられたって当たり前の様に彼女に目もくれずに外を眺めていた。  なんだい その先は オレも見た。 細い線にとまっては また羽根を広げ また飛んでゆく 鳴きながら日差しの中で遊んでいる鳥達がいた。  前のトコにも野良でアンタと同じの たまに来とったで 毎回追い返されんねん  暖かく天気の良い日はそれだけで人を外に誘い出す。  大きなスーパーと駐車場続きで隣のホームセンターも賑わっている。 毎回同じセリフを繰り返し話すレジのオバチャン 必要な物を買いに来て子供に欲しいとねだられ グダグダの親子 趣味の釣り竿を悩みに悩んで 結局、最初に見た物に戻りまた悩むオヤジ その広い大きな空間の中の一部屋にオレは居た そう さっき迄は。 見たとしてもなかなか買う人は多くない場所を取るデカい観葉植物達 大きな広いテーブルの上には沢山のオレ達と 1つ下の段には鉢を隠す程美しい花々が連なり オレンジ 黄色 ピンク 紫 色気の無いオレ達と何とかバランスをとってくれている様に感じた  そこに彼女が入って来たのだ。 歩きながら眺める大きな観葉植物は買う気もなさそうに通る。 そしてオレらの居るテーブルに向きを変えオレらを よーく見始めた。 目があった。 するとオレの鉢を片手で持とうとした その拍子すぐに彼女は顔を歪め手を離した。 「いてっ」 小さな声で彼女は言った。  すまん  わざとやないで  多いわな 「こんなにオレも要らん思うわ〜」 彼女は自分の指を撫でながらオレを見ている。 次には両手で用心してオレを抱えて持った。 顔の真ん前まで上げ 「うん」 と言った様にうなずいた後 同じセリフを繰り返し話すオバチャンの所へ行ったのだ。  先程まで外の鳥達に目を向けていたのが じっとオレを見ているのに気付いた。  おっと 「なんだい!」 思い返して違う世界にいきすぎて見られているのに気付かず勝手に驚いたオレ。 「なんや」  お前がなんや なんだかムカついて言ってやった。 何て事もなくそいつはオレに顔を近づけオレの周りを歩き見定めている。 するとその無防備で愛らしい手で豪快にパンチを仕掛けてきた。  ほ〜 何度か調子に乗ってオレを触るもんだから とうとう命中した  どうや  痛いな? 言わないが ほくそ笑っているオレは無愛想なそいつに仕返ししたつもりでいた。 「ほら 痛いでしょ?」 彼女はそいつが何度も触って倒れたオレのトリセツであろう物を差し戻しながら言った。 そして自分の顔をそいつに寄せては両手で撫で回し何とも幸せそうに微笑んでいる。  
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