能ある鷹は爪隠すけど脳があっても爪はクリームパンの中にしまいっぱなしなねこ

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能ある鷹は爪隠すけど脳があっても爪はクリームパンの中にしまいっぱなしなねこ

ーーーーーーーーーー  ...まさかあの後、家の中まで付いてくるとは思わなかった。    冷えた体をお風呂で温め終えた後という一番リラックスしている時に、僕よりも大きい猫が幽霊の様にリビングに立ち尽くしている所に出くわしたのだ。僕が幽霊猫に絶叫したのはいうまでもない。僕の全力の発狂を受けても猫は顔色どころか表情ひとつ変えずに無言で立ち続ける。それはもうホラーそのものだ。  危害を加えてこないと知り、落着きを取り戻した僕はストーカー猫に何故ここにいるか詰め寄ると、どうも僕がこの猫を先に渡した五円で買ってしまったことが原因らしい。何かくーりんぐおふ? されたばかりで帰ろうとした所に雨が降りだしたので、僕の家の前で雨宿りしていた所に僕に買われたらしい。たったの五円で買えるなんてどんだけ安いロボットなんだよ、と思いつつも僕は少しだけ胸を躍らせた。 「何かよく分からないけど、買ったということは僕に何かしてくれるんだろ? ロボットなんだし。で、何ができるの?」 「ねこはねこです。さっきもいいました。ねこは『しないねこ』です。しないねこはなにもしません」 「...は? 何もしない? お金取るのに?」 「そうです」 「...ごめん。悪いけどすぐにでも出ていってくれないかな?」  膨らむ期待が一瞬にして失せた僕は役立たずな猫を玄関口まで押しやり、ドアを開けて突飛ばそうとする。だけど外は台風かという程に雨風を強めていて、今外に追い出そうとするのは鬼以外の何者でもないと思ってしまった。猫は相変わらず無表情だけど、その目はとても悲しそうな目をしている様に感じた。 「...ああ、もう!! 分かった!! 分かったよ。今日だけね。今日だけここにいていいからさ。そんな顔しないでよ」  僕はドアを閉めて洗面所に行ってタオルを取ってくる。雨宿りするまでにちょっと雨に濡れてしまったのか、水が滴る体のままリビングで僕が風呂から出てくるを待っていたのが、フローリングに残る水たまりから分かる。はっきり言って迷惑だけど、何もしない猫だって言ってたしこのまま放っておいたら本当に濡れたままなのだろう。そのまま歩き回られたら困るので、僕は自分よりも大きい猫の体をふき取っていく。これじゃそこらにいる野良猫と何も変わらないな、と思ってしまう。 「ありがとうございます」 「いくら何もしないと言ってもこれ位はしてよ、全く...本当は何かできるんでしょ? 超能力、とは言わないけどさ。ほら、実は凄く美味しいご飯が作れるとかさ」 「ごはんはごはんねこがつくります。ごはんねこがおのぞみなら、うしろにあるボタンをおしてください。ねこがごはんねこになります。ただしへんこうはいちにちいっかいまでです」    ボタンって言ってるし、やっぱりロボットじゃんか...と思いつつ僕は猫の首の後ろにあるボタンを見つけて、押してみる。最初はポチっと一回。二回目はポチポチと連打。長押し... 「...何にも起こらないけど、ごはんねこになったの?」 「いいえ。ねこはしないねこです。あめにぬれてこしょうしたみたいです。しゅうりがひつようです。」 「はぁ...そうですか。もういいです。もう何も期待しません。所詮猫だし」  猫の恩返しなんてあるはずもなく、美味しいご飯が食べらえるかもという期待すら裏切られた僕は、カップラーメン用のお湯を沸かしながら脱力からテーブルに突っ伏す。なんだか変な拾い物をして酷く疲れてしまった。確かにペットが欲しいなと思ったけど、こんなに疲れる物だなんて知っていたら欲しいなんて願わなきゃよかったな、なんて後悔する。 「あっ。何か食べる? といっても猫が好きそうな物はうちにはないけど」 「ごしんぱいありがとうございます。でもいりません。ねこはたべるねこじゃないので、なにもたべません」 「あっそう。これじゃまだそこらにいる野良猫の方が可愛げがあるよ」  (けな)されても無表情の愛嬌ゼロの猫を横目に、僕はずるずるとカロリーを(すす)る。もう人生で何度食べてきたか分からない、もはや飽きを通り越して美味いのかもよく分からない主食を食べながら、僕はずっと部屋の隅で立っているだけの猫にどこか罪悪感を覚える。どれだけ勧めてもたぶん食べないんだろうけど、これじゃまるで虐めているみたいだ。 「…あの、さ」 「なんでしょう」 「その…早く直るといいね。そのボタン」 「そうですね。ねこはしないねこなので、みんなにいやがられます。なおらないとしごとがもらえません」 「そっか…しごと、か」  あまり聞きたくない単語を聞いたせいか、どこか寂しい気持ちになった僕はその気持ちを圧し殺す様に勢いよくカップ麺を啜り、平らげる。早々に栄養補給を片付けた僕は颯爽(さっそう)と自室に戻り、宿題と日記を片付け始める。  いつもと何ひとつ変わらない日常。  僕は今日もそれを淡々とこなしていく。  ただ一点。何の役にも立たない猫が一匹いるということを除いて、今日も1日が過ぎていく…
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