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パパの話
私の名はジェームズ。精神科医をしている。そして私の助手はマリアという女性だ。
私達は様々な精神疾患を学び、研究し、沢山の患者を救ってきた。
そして今回、どの精神科医でも手に負えなかった1人の少女を治療する事になった。
少女の名前はエミリー、解離性同一障害を患っている。前の医師の話によれば、少女が1人でいる時、または夜に、もう一つの人格が出てくる。その人格の名前はミザと言い、凶暴な性格を持つ。
私はまず、なぜ新しい人格ができたのかを調べる為にエミリーの過去を探った。
すると、エミリーは過去に両親から虐待されていた事が明らかになった。エミリーは自己防衛の為に新たな人格を創り出したのだ。
ならば治療法は家族から愛を受ける事だと考えた私は、自らを父、助手を母と偽り、山奥の別荘にエミリーを養子として迎えた。
「こんにちは。エミリーです。今日からよろしくお願いします。」
その少女は、私が想像していたよりも愛嬌がある見た目をしていた。
「よろしく。今日からここが君の家だ。さぁ、中に入って。」
リビングに座り、私達は簡単な自己紹介をした。
「私はジェームズ、君のお父さんだ。そして隣のマリアは君のお母さん。今日からよろしくね。」
すると少女は嬉しそうな表情で「お父さんお母さん。」「パパ、ママ」と言った。
それから私達は家族として生活した。公園で一緒に遊んだり、家の中でゲームをして遊んだり、時間が経つにつれて、エミリーを本当の娘だと思い込むぐらいに愛すようになっていた。
だがある日、エミリーは重大な発表があると言って私達を呼び出した。
「パパとママに話したい事があるの。」
「何だ?言ってみなさい。」
「あのね...私にはミザっていう双子の妹がいてね。いつもは恥ずかしがって、私が誰かと居る時や明るい時には隠れてるんだけど、パパとママに会ってみたいって言うの。」
私は息を呑んだ。エミリーは普通の少女ではない。凶暴な一面を持つ二重人格者なのだと改めて思い知らされた。
と同時に、ミザとはどのような人格なのかも気になった。エミリーが家に来てから、私はたったの一度もエミリーがミザに変わる様子を見た事がないからだった。
「エミリーは、ミザと仲が良いのか。」
「うん!小さい頃から仲良しだよ。」
「じゃあ、今日の夜会ってみるよ。」
エミリーは、よっぽど嬉しかったのか飛び跳ねて喜んでいた。
夕食の5分前、妻が切羽詰まった表情で話しかけてきた。
「エミリーには悪いけど、ミザに会うのはやめた方がいいと思うわ。」
「何でだ?エミリーが私達の娘なら、エミリーの中にいるミザも私達の可愛い娘じゃないのか⁉︎」
「そもそも私達の娘というところから間違っているの!あなたは精神科医で私はあなたの助手!そして、エミリーは私達の患者なのよ!」
「パパ、ママ部屋に入っていい?」
エミリーが来た。今の会話を聞かれていたらまずい。
「ああ、入りなさい。」
エミリーはドアを開け、部屋に入ってきた。
「ずっとドアの前に居たのか?」
「ううん、今来たところ。」
聞かれていなかったようだ。ひとまず安心した。
「部屋の灯りを消して、ロウソクに火をつけてくれる?ミザは恥ずかしがり屋なの」
「ああ。分かった。」
電気を消し、ロウソクに火をつけ、エミリーと向かい合うように座った。私の隣で妻が震えているのが分かった。
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