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「じゃあ、ミザを呼ぶね。」
そう言ってから、エミリーは俯いた。
そしてエミリーが再び私達の方を向いたとき、ロウソクの火がエミリーの顔を照らした。
目の下にはクマが出来ていて、目の周りの小ジワが目立っている。40代、いや50代程の年齢の顔がエミリーの胴体の上にのっていた。そして、それは口を動かした。
「エミリーは私のことを双子の妹だと思っているけれど、実は私は母なの。」
私は驚きのあまり声が出せずにいた。ミザは、エミリーの母親の人格だったのか。と思っている内に、またミザは話し始めた。
「私が母なの。エミリーには言ってないけど。それなのに貴方の妻が、母親は私だ!って言うから...今度顔を見せたら殺すって、私言ったわよね?」
そう言った瞬間、ミザは妻に飛びかかった。
「ミザを引き剥がして!早く!」
私はミザを引き剥がそうとしたが、物凄い力で壁まで投げ飛ばされた。なんて力だ。背中に激痛が走ったが、今は妻を助ける事が最優先だ。
私は部屋の電気をつけた。するとミザは、力が一気に抜けたように気を失った。
妻の顔には、いくつもの引っ掻き傷ができていて、目には涙が浮かんでいた。
これは、エミリーへの信頼をなくすのに充分すぎる程の出来事だった。
この出来事から妻はエミリーに冷たくなった。
そして毎日私に、「もうエミリーは私達の手に負えないわ。別の精神科医の所に連れて行きましょう。」と懇願してきたが、私にとってエミリーは可愛い娘であり、哀れな患者だったので「もう少し様子をみよう。」と妻を諭していた。
だが、日に日にエミリーの症状が悪くなっているという事には私も気付いていた。
エミリーが夜中に家の中を彷徨いているのを私は何度も目撃しているのだ。
私達が不安に包まれていた矢先、ある事件が起きた。妻が死んだのだ。
ある夜、妻が痙攣し始めたかと思いきや呼吸が止まった。すぐに救急車を呼んだが間に合わなかった。
もしやと思い、知人の解剖医に妻の死因を調べてもらうと、何者かによる毒殺だという事が分かった。毎日少量の毒を取り込んでいて、それが蓄積されたことにより死亡。
犯人は1人しかいない。ミザだ。
この頃から私は本格的に精神を病み始めた。天使のようなエミリーと悪魔のようなミザが1人の少女の体に住んでいる。
エミリーは、今夜も家の中や外を彷徨いている。しかも、包丁を持ちながら。
「パパ!パパ起きて」
「うわぁぁ‼︎こっちに来るなー!」
「きゃあ!痛いよー!」
気がつくと、エミリーが大声で泣いていて、俺はエミリーの髪を引っ張っていた。
俺は何てことをしてしまったんだ。ミザならともかく、エミリーに暴力を振るってしまった。
「エミリーごめんな。パパは病気なのかもしれない。最近、幻が見えるんだ。エミリーが悪魔に見えてしまうんだ。」
「大丈夫だよパパ。治らない病気はないってパパ、いつも言ってたでしょ?」
それから俺は、ミザが活動する夜の間だけ地下室に閉じこもった。エミリーを自分から守る為に、そしてミザから自分を守る為に。
地下室は狭く、寒く、そして暗い。
私は夜の間は幻覚が見えたり、幻聴が聴こえるようになり、徐々に気が狂っていった。
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