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モン・ブラン モンブ・ラン
モンブランは、「モン・ブラン」なのか、「モンブ・ラン」なのか?
ずっと思っていた。
そんなのことはどうでもいい、知っているのは潰した栗を紐状にして、出来の悪い脳味噌のように練ったペーストを積み上げたショートケーキだってことと、九州の少年に馴染みなチョココーティングと不思議なトッピング塗しのアイス菓子や、高級万年筆の名前に使われている山に見立てているってこと位だ。
なにしろ潰した栗の舌触りが苦手だし、脳のニューロンのようなモンブランが嫌いだ。今まで一度たりとも口にしたことはない。大人になってからも。
モンブランが大好きだった母は惜しむべきヒトサジを差し出したけれど、子供のころの私は歯を固く結び決して口を開かなかった。
久しくモンブランのことを考えることもなかったある寒い日、母が死んだ。
葬儀を抜けて、洋菓子店まで歩いた。生前の彼女が「食べてみたい」と呟いたパティシエの店へと。
モンブランを一個だけ買った。
「銀紙は燃えないので外してください」
喪服姿でそう言う私の疲れた作り笑顔で察してくれた店員は、一個だけのモンブランを丁寧に包んでくれ、手渡しながら言った。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
私は言葉に出さず会釈で返した。
それを棺桶に入れた。紙コップの珈琲も添えた。見下ろすけれど、やっぱりモンブランは脳味噌のようで、好きになれない見目だった。
モンブランは母と一緒に燃えた。
今でもモンブランは嫌いだ。口にしたことはないけれど。燃え溶けた脳のような悲しい味がするんだろうなって思ってしまうので。
けれど今年もこの寒い同じ日、モンブランを一個だけ買って帰る。
誰も食べないモンブランを。
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