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 少年をつれてバドがやって来たのは河原だった。バドが幼い頃から釣りをしてきた場所である。そこでバドはフォガードから自給自足で生きる生活の術を学んだ。バドは適当な場所に腰を下ろし、その横に座るよう少年に促す。 「……」  少年は浮かばない表情ながらもそれに従った。年長者で大人に近い少年ともっと幼い少年が肩を並べる。後ろから見れば兄弟のように見えるあろう。バドが切り出した。 「オレはバドだ。君の名は?」  そう言って少年に優しく微笑みかける。心に深い傷を負った少年の悲しみを少しでも和らげようとしたのだ。  しかし少年は瞼を伏せ、暗い面持ちのまま答える。 「ゲアン……」 「そうか」  バドは立ち上がり、どこからか釣竿とバケツを持って戻って来ると釣りを始めた。 「……?」  ゲアンは不可解に思いながら、その様子を眺めていた。 「何で釣りなんかするの?」と顔をしかめる。  するとバドは落ち着いた声でこう言った。 「生きるためだ」 「生きるため?」  腑に落ちなかったのか、ゲアンの表情がますます険しくなっていく。  バドはこう続けた。 「一日中泣いていようが腹も減るし、眠くもなる。生きる為には食べることが必要だ。そして、その為に食料を得ることも」 「こんな時に食欲なんか湧くわけないだろ!? それに今、釣りなんかしなくてもいいじゃないか!?」  ゲアンは悔しさと悲しみを一気にぶつけるように、バドに向かって叫んだ。この年長者の言動は今まさに不幸のどん底にいる少年に対して、あまりにも冷たい対応に思えた。ゲアンは憤慨して立ち上がる。 「ゲアン!」  そこから逃げ出そうとするが、彼の腕をバドが掴んだ。 「放してよ!?」  ゲアンがその手を振り払おうとして、激しく暴れる。バドは釣竿を置き、ゲアンの肩を掴んで自分のほうに向かせた。ゲアンが大きな青色の瞳を潤ませながら、バドの顔を睨み付ける。 「……ッ!」 「ゲアン……悲しみから目を逸らしても、その事実は消えない。ゆっくり時間を掛けてでもそれを受け止めて生きて行くしかない――それが運命だ」  ゲアンは怒りが頂点に達したように目を剥いた。 「……お兄さんなんかに何が分かる!? あんな思いっっ……したことも無いくせに!」  そう叫ぶとバドの手を振り払い、どこかへ走り去って行った。
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