ふたりよがり。

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愛情が狂気にもなることを、二人はまだ知らない。 先生と生徒という関係が恋人に変わったのは、高校三年生の桜咲く春のこと。 卒業式が終わり、今まで言えなかった想いが、涙と共に溢れ落ちていく。 顔を俯かせ声を震わせる俺に、「君らしくないね。」と先生は笑った。 あれから二年の月日が経ち、俺たちは同棲をしている。 「一緒に住めば楽なのにな。」という独り言にも似た誘いを喜んで受けたのだ。 二人でやれば何でも楽しい、と思えるほど毎日が幸せだった。 物足りないと思うようになったのは、更に一年の月日が経つ頃だった。 胸の内に収まり切らなくなった感情が、思考を歪ませる。 もっと、もっと彼を所有したい。 貴方は俺のモノでしょう? 日曜の午後、隣で気持ち良さそうに眠る彼に、食べてしまいたいという想いが芽生えた。 その時は自分でも驚いて苦笑いを浮かべたが、日に日に欲が大きくなっていくのが分かる。 ――――少しだけ、少しだけ、少しだけ。 理性が飛んだ俺は、いつの間にか彼の首筋に噛み付いていた。 それはまるで獣のように。 「い..ったい..」と泣く声にハッとして、 慌てて謝り距離を取る。 自分の中で確実に何かが壊れていくのを感じたが、もう止めることは出来なかった。 この衝動が束縛や依存から生まれてることに気付いたのは、彼が生徒と話しているのを見掛けたときだった。 自分の一部にしてしまえば、他の誰のモノになる心配はないと思ったのだ。 貴方を食べたいのだと話したのは、その晩のこと。 彼は、「どうした?」と不思議そうに首を傾げた。 黙り込んだまま俯く俺を見て、彼は意図を察したようだった。 そして、「カニバリズムか。悪くないな。」と真っ直ぐ此方を見て笑った。 ベッドに押し倒し、そのままゆっくり首を絞めると、苦しそうに顔を歪ませる姿を見て、怖くなり手を離した。 そんな俺に彼は「君の一部になれたら幸せなんだけどな。」と頭を撫でた。 その言葉を聞いて微笑み、今度は躊躇うことなく力を込めた。 ーーー愛しい貴方を頂きます。 それから俺は、余すことなく彼を食べた。 仄かに甘く、美味しすぎて涙が出る。 これでもう、何も心配することはない。 先生、愛しているよ。 その後どうなったのかは、二人だけの秘密。
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