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幼稚園受験に失敗したあの日から、両親は俺を出来損ないだと罵るようになった。
それでも昔は褒めてもらいたくて、とにかく必死だったのを覚えている。
常に学年トップをキープしていたし、運動神経だって悪くはなかった。
けれど学歴が全ての二人にとって、そんなことはどうでも良かったのだろう。
此方に興味を示すことは一度もなかった。
髪を金色に染め、ピアスを開けたのは、高校生になってすぐのこと。
ふと何もかもが虚しくなり、優等生を演じることを辞めた。
それと同時に数少ない友人が離れていったけれど、哀しいとは思えなくて。
ほとんどの時間を屋上で過ごし、気が向いた時にだけ授業に出席した。
それでも今まで必死に勉強してきたこともあり、テストの結果は上位をキープしている。
教師たちが何も言ってこないのはそのおかげか、それとも見捨てられているのか。
今まで保ってきた精神状態が崩れ始めたのは、二年生になったばかりのことだった。
昔の夢を頻繁に見るようになり、睡眠薬なしでは眠れなくなってしまったのだ。
服用する数が増えていくにつれて、食事を吐いてしまうこともあった。
徐々に窶れていったけれど、気に掛けてくれる人はいない。
忘れかけていた孤独感が浮き彫りになり、自分を破壊したい衝動に駆られるようになった。
初めは首や腕を引っ掻く程度だった自傷行為も、今では何の躊躇いもなく手首をカッターナイフで切り裂く。
大体は無意識にやっていて、我に返った時にはいつも血だらけになっている。
死を選んでしまえば楽になれるのに、どうしても恐怖心の方が勝ってしまい、そこまでは出来なかった。
こんなはずじゃなかった、と言っても今更遅いだろう。
増えていく薬瓶と傷を眺めながら、後戻り出来ないことに気付く。
夏が始まった頃には、思うように身体が動かなくなっていた。
けれど家には居たくなくて、長袖のシャツで傷を隠し、休まず学校には行き続けた。
それでも屋上まで階段を上がるのは億劫で、仕方なく授業に出席するようになった。
薬のせいか頭がぼんやりしていて、内容は入ってこないのだけれど。
時々視線を感じて教室内を見渡してみると、決まって東條雅也と目が合った。
今も少しの間だけではあるものの、確かに此方を見ていた。
入学当初から学年トップでどのテストも満点を取っている秀才でありながら、謙虚で誰にでも分け隔てなく優しい人気者。
クラスメイトが話しているのを、たまたま耳にしたことがあった。
努力が才能に勝てないのは、痛いくらいよく知っている。
喉から手が出るほど欲しいものを、あいつは持っているのだ。
だから憎くて、何もない自分が情けなくて、嫌になる。
自己嫌悪に陥り始めると、急に喉の奥がひゅっと音を立て、上手く呼吸が出来なくなった。
あまりの苦しさにパニックになりながらも、此処に居てはいけないと咄嗟に教室を飛び出す。
椅子が勢いよく倒れる音や教師の怒鳴り声が聞こえたけれど、そんなことを気にしている余裕はなくて。
ふらふらとした足取りで、出てすぐのトイレに駆け込み、そのまま膝から崩れ落ちた。
どうにか酸素を取り込もうと口を開き、何度も何度も息を吸う。
ガタガタと身体は震え、意識が朦朧とする。
期待に応えられなかった罰なのかもしれない、そう思った。
「小林くん!?しっかり..!」
「..はっ..ひゅ..ん、く..ッ..」
不意に焦ったような声が、俺の名前を呼んだ。
視界が霞んでいて、誰なのかは分からない。
縋るように相手の服を握れば、自分よりも大きな身体に抱き起こされ、少しだけ楽な体勢になる。
きっと酷い顔をしているだろうけれど、気にしている余裕もなかった。
「もうちょっと頑張ってね。大丈夫だよ。」
「は..ぁ..は..」
何度も丁寧に背中を上下する温もりに気付けば安心していて、次第に息苦しさが和らいでいく。
そして呼吸や震えが落ち着くと、俺は眠るように意識を失った。
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